英文契約書を読んでいると、必ずと言っていいほど登場するのが「Force Majeure(不可抗力)」という条項です。パンデミック、自然災害、戦争——こうした予測不能な事態が起きたとき、この条項が発動されるかどうかで、企業の法的責任は大きく変わります。Force Majeureは単なる「免責のお守り」ではなく、発動要件・通知義務・免責範囲が精緻に設計された法的メカニズムです。まずはその基本構造をしっかり押さえましょう。
Force Majeure条項とは何か?基本構造と役割を押さえる
Force Majeureの定義と契約上の位置づけ
Force Majeureとは、フランス語で「より大きな力」を意味し、英米法・大陸法を問わず国際契約で広く用いられる概念です。契約上は、「当事者の合理的支配の及ばない事象(events beyond the reasonable control of the parties)」によって債務の履行が不可能または著しく困難になった場合に、履行義務を停止・免除する条項として機能します。重要なのは、この条項がコモンロー上の「Frustration(契約目的の達成不能)」法理を補完・代替するために、当事者が明示的に合意して設けるものだという点です。条文がなければ適用されないため、契約書への明記が不可欠です。
典型的な条文の全体構造を読み解く
Force Majeure条項は、一見長く複雑に見えますが、構造を知れば読み解きやすくなります。通常、以下の5パートで構成されています。
- 対象事象の定義(Definition):天災、戦争、政府規制、パンデミックなど、どの事象がForce Majeureに該当するかを列挙・定義する
- 発動要件(Triggering Conditions):事象が履行不能・遅延の直接原因であること、回避不能であることなどの条件を定める
- 通知義務(Notice Obligation):事象発生後、一定期間内に相手方へ書面で通知する義務を課す
- 免責効果・継続期間(Relief and Duration):免責される義務の範囲と、事象継続中の猶予期間を定める
- 解除権(Termination Right):事象が一定期間以上継続した場合、当事者が契約を解除できる権利を定める
“Neither party shall be liable for any failure or delay in performance to the extent caused by circumstances beyond its reasonable control, including but not limited to acts of God, war, government actions, or pandemic, provided that the affected party gives prompt written notice to the other party.”
損害賠償条項・Hardship条項との違い
Force Majeureは、混同されやすい隣接概念と明確に区別する必要があります。この3つを混同すると、契約交渉での主張が的外れになる危険があります。
| 条項 | 主な目的 | 効果 | 典型的な発動場面 |
|---|---|---|---|
| Force Majeure | 履行義務の停止・免除 | 責任そのものを消滅・猶予させる | 天災・戦争・パンデミック等による履行不能 |
| 損害賠償条項(Indemnification) | 損失・損害の分担 | 責任の所在と補償範囲を定める(責任は残る) | 一方の過失・違反による損害が生じた場合 |
| Hardship条項 | 契約の再交渉義務 | 履行義務は継続しつつ、条件変更を交渉する権利が生じる | 経済状況の激変で履行が著しく不均衡になった場合 |
Hardship条項はあくまで「再交渉のテーブルに着く義務」を生じさせるもので、履行を自動的に免除するわけではありません。Force Majeureとの使い分けを誤ると、交渉で不利な立場に立たされます。
発動要件の文言を徹底分析する——「何があれば」免責されるのか
列挙方式 vs 包括方式:対象事象の定め方の違い
Force Majeure条項が実際に機能するかどうかは、まず「どの事象が対象か」という定め方に左右されます。条文の書き方には大きく2つのアプローチがあります。
| 方式 | 特徴 | 免責範囲 |
|---|---|---|
| 例示列挙+包括条項型 | 具体的事象を列挙したうえで「その他当事者の合理的支配を超える事象」などの包括文言を追加 | 広め(包括文言で拡張可能) |
| 完全列挙型 | 対象事象を限定列挙し、包括条項を設けない | 列挙された事象のみに限定 |
【例示列挙+包括条項型】”…including but not limited to acts of God, war, earthquake, flood, or any other event beyond the reasonable control of the affected party.”
【完全列挙型】”…limited to acts of God, war, earthquake, and flood only.”
包括条項「beyond the reasonable control of the affected party」の有無が、新たな事象への対応力を決定的に左右します。この文言があれば列挙されていない事象でも主張の余地が生まれますが、解釈の幅が広いため紛争の火種にもなります。
3つの発動要件:予見不能・回避不能・因果関係
対象事象に該当するだけでは免責は認められません。実務上、以下の3要件をすべて満たすことが求められるのが一般的です。
契約締結時点において、当事者が当該事象を合理的に予見できなかったこと。既知のリスクや業界で想定済みの事象は要件を満たさない可能性が高い。
事象の発生または影響を合理的な努力によっても回避・軽減できなかったこと。代替手段が存在する場合は要件を満たさないと判断されることがある。
当該事象が契約上の義務不履行を直接引き起こしたこと。事象が発生していても、不履行との因果関係が間接的・付随的にとどまる場合は免責が認められない。
「経済的困難」「コスト上昇」は対象になるか?実務上の論点
原材料価格の高騰、為替変動、輸送コストの上昇といった「経済的困難(economic hardship)」は、Force Majeureの対象外とされるのが原則です。これらは市場リスクとして当事者が引き受けるべきものと解釈されます。免責を求めるには、条文に “economic hardship” や “material cost increase” を明示的に列挙する必要があります。
パンデミック・サイバー攻撃・サプライチェーン途絶の扱い
近年締結される契約では、感染症の世界的流行(pandemic/epidemic)、サイバー攻撃(cyberattack)、サプライチェーンの途絶(supply chain disruption)を明示的に列挙するケースが増えています。一方、これらの文言が盛り込まれていない既存契約では、包括条項の解釈次第で結論が分かれ、実際に訴訟・仲裁に発展した事例も報告されています。
- パンデミック:政府による操業停止命令など「履行を物理的に不可能にする措置」との因果関係が鍵
- サイバー攻撃:第三者による攻撃は対象となりうるが、セキュリティ対策の不備があれば回避可能と判断されるリスクがある
- サプライチェーン途絶:単一サプライヤーへの依存が「合理的回避努力の欠如」と見なされる可能性がある
契約審査の際は「列挙事象の網羅性」と「包括条項の有無」を必ず確認し、自社が直面しうるリスクが明示的にカバーされているかをチェックしましょう。
通知義務の具体的スキームを理解する——手続きを怠ると免責が消える
Force Majeureは「事象が発生すれば自動的に免責される」わけではありません。多くの契約では、事象発生後に定められた手続きを踏まなければ、免責の効力そのものが失われます。この「通知義務」は、Force Majeure条項の中でも特に見落とされやすく、かつ実務上のリスクが高い部分です。
通知義務の典型的な条文パターンと必須記載事項
典型的な条文では、「The affected party shall notify the other party in writing within [X] days of the occurrence of a Force Majeure event」のように、書面での通知と期限が明示されます。通知書に盛り込むべき内容は、概ね以下の4点が標準的です。
- 事象の内容と発生日(具体的な事実関係)
- 影響を受ける契約上の具体的義務(履行不能・遅延となる義務の特定)
- 予想される継続期間(見込みが不明な場合はその旨も明記)
- 講じている・講じる予定の軽減措置(mitigation measures)の内容
通知期限・方法・宛先:見落としやすい実務上の落とし穴
通知期限は契約によって3日・5日・14日・30日とさまざまです。また、「書面(written notice)」の要件として、メール可・不可の扱いが契約ごとに異なる点に注意が必要です。宛先についても、契約書に指定された担当者や部署宛でなければ有効な通知とみなされないケースがあります。
期限内に通知したつもりでも、メール不可の契約でメールのみ送付した場合や、指定の連絡先ではなく担当者個人に送った場合、通知自体が無効と判断されることがあります。その結果、Force Majeureの援用権を失い、債務不履行責任を問われるリスクがあります。
継続的な状況報告義務と軽減措置(mitigation)義務
初回通知後も、多くの契約では定期的な状況更新報告(periodic updates)が義務付けられます。また、当事者は合理的な範囲でForce Majeureの影響を最小化する努力(mitigation obligation)を継続しなければならず、これを怠ると免責範囲が縮小されるリスクがあります。
通知義務違反が免責に与える影響
実務上、特に争点になりやすいのが「起算点」の解釈です。「事象の発生時点」から起算するのか、「当事者が事象を知った時点」から起算するのかで、通知期限が大きく変わる場合があります。この点が曖昧な契約では、交渉段階で「知った時点(when the party becomes aware)」と明記しておくことが重要です。
Force Majeure該当事象の発生を確認し、契約書の定義・列挙事項と照合する。起算点(発生日 or 認識日)を契約書で確認する。
契約所定の方法(書面・メール可否)・宛先・期限を厳守し、必須4項目を盛り込んだ通知書を送付する。
代替手段の検討・実施状況を記録し、相手方に対して合理的な軽減努力を示す証拠を積み上げる。
事象の継続中は定期的に相手方へ状況を更新報告し、終息が見込まれる時点で速やかに終了通知を送付する。
通知手続きは「免責を得るための条件」です。どれほど深刻なForce Majeure事象であっても、手続きを一つ誤れば免責が消えます。契約締結時に通知フローを社内マニュアル化しておくことが、実務上の最大のリスクヘッジになります。
免責範囲と契約終了権の読み方——「どこまで」守られるのかを見極める
Force Majeureが発動したとして、では「何が免除されるのか」は条文によって大きく異なります。免責の効果は「履行期限の猶予」にとどまる場合と、「履行義務そのものの消滅」まで及ぶ場合があり、同じ”Force Majeure”という言葉でも条文の設計次第で保護の厚みは全く違います。交渉前に必ず確認すべき核心部分です。
免責の効果:履行停止か、履行免除か、損害賠償免除か
Force Majeureの免責効果には主に3つのパターンがあります。どのパターンが適用されるかは、条文中の動詞と対象の組み合わせで判断します。
| パターン | 免責の内容 | 典型的な文言 |
|---|---|---|
| 猶予型 | 履行期限が延長されるのみ。事象消滅後は履行義務が復活する | “shall be excused from delay in performance” |
| 免除型 | 当該履行義務そのものが消滅する | “shall be relieved of its obligation to perform” |
| 損害賠償免除型 | 履行しなかった場合の損害賠償責任のみ免除される | “shall not be liable for any damages resulting from” |
実務上は「猶予型」が最も多く見られます。免除型は売主にとって有利ですが、買主側からすると長期間の供給停止が正当化されうるため、交渉で上限期間を設けることが重要です。
免責期間の上限と契約解除権(Termination Right)の発動条件
多くの契約では、Force Majeureが一定期間(90日・180日が典型)継続した場合に、一方または双方が契約を解除できる条項が設けられています。解除権の設計には以下の点を確認してください。
- 解除権を行使できるのは「双方」か「一方のみ」か
- 解除のための通知期間(例:30日前通知)が定められているか
- 解除後の原状回復・費用負担(前払金の返還等)が規定されているか
- 解除権発動後も存続する条項(Survival Clause)が明示されているか
“If a Force Majeure Event continues for a period of more than [90] consecutive days, either Party may terminate this Agreement upon [30] days’ written notice to the other Party, without liability to either Party.”
支払義務・既発生債権への適用可否
代金支払義務など金銭債務はForce Majeureの対象外とする条文が多く、買主にとって最重要のチェックポイントです。「Payment obligations shall not be excused by Force Majeure」のような除外規定が入っていないか、必ず確認してください。既に発生した債権(既納品分の代金等)への適用可否も同様に確認が必要です。
金銭債務の除外規定が明記されていない場合でも、裁判例上は支払義務への適用が認められないケースが多い点に注意が必要です。
一部履行が可能な場合の按分・優先順位ルール
供給量の一部のみ影響を受ける場合、残存する供給能力をどう配分するかのルールが条文に定められているかを確認します。明記がなければ、複数の買主への優先供給順位をめぐって紛争が生じる可能性があります。
- 支払義務はForce Majeureで免除されるか?
-
原則として免除されません。多くの契約では金銭債務を明示的に除外しており、仮に除外規定がなくても、支払いを妨げる「不可抗力」を主張するのは実務上困難です。条文に除外規定がない場合でも、当然に適用されると考えるのは危険です。
- 一部履行が可能な場合、売主はどう対応すべきか?
-
条文に按分ルール(pro-rata allocation)や優先供給先の決定基準が定められていれば、それに従います。規定がない場合は、買主との協議・合意が必要になります。交渉時に「partial performance」条項を追加しておくことが望ましいです。
- 契約解除後、前払金は返還されるか?
-
契約に原状回復条項(restitution clause)がある場合は返還義務が生じます。規定がない場合は準拠法に基づいて判断されます。解除後の費用負担を明確にするため、交渉段階で「consequences of termination」条項を整備しておくことを推奨します。
売主・買主それぞれの立場から見た交渉戦術と修正案文例
Force Majeure条項の交渉は、売主と買主で利害が真っ向から対立します。どちらの立場で交渉するかによって、狙うべき文言と守るべきレッドラインは全く異なります。自社のポジションを明確にしたうえで、修正案文を準備することが交渉の第一歩です。
売主(供給者)として有利にするための交渉ポイントと修正案文
売主が目指すのは、対象事象の範囲を広く取り、通知期限を長く確保し、免責効果を「履行義務の消滅」まで広げることです。特に「合理的支配外(beyond reasonable control)」という包括文言を活用することで、列挙されていない事象もカバーできます。
“Force Majeure Event” means any event or circumstance beyond the reasonable control of the affected party, including but not limited to acts of God, war, epidemic, pandemic, government action, labor disputes, or disruption of supply chains, whether or not foreseeable at the time of execution. Upon occurrence, the affected party shall notify the other party within fourteen (14) calendar days. The affected party’s obligations shall be suspended for the duration of the event, and if the event continues for more than ninety (90) days, either party may terminate this Agreement without liability.
ポイントは「including but not limited to」による開放型列挙と、通知期限を14日(暦日)と長めに設定している点です。また、免責を「suspension(停止)」にとどめず、長期化した場合の「termination without liability(無責解除)」まで明記しています。
買主(調達者)として自社を守るための交渉ポイントと修正案文
買主が優先すべきは、対象事象の限定列挙・経済的困難の明示除外・通知期限の短縮・支払義務免除の排除です。代替調達が必要になった場合のコスト補償規定を盛り込めれば、さらに有利になります。
“Force Majeure Event” means only the following events: acts of God, war, terrorism, or government-imposed embargo, provided that economic hardship, increase in costs, or market fluctuations shall not constitute a Force Majeure Event. The affected party shall notify Buyer within five (5) business days. This clause shall not relieve Seller of any payment obligations. If Seller fails to deliver within thirty (30) days of the scheduled date, Buyer may procure substitute goods at Seller’s expense.
双方がWin-Winになる落としどころ:バランス型条項の設計
実務では、一方に極端に有利な条項は交渉が長期化します。バランス型の設計として、次の3点の組み合わせがよく採用されます。
- 事象の例示列挙+「合理的支配外」という包括要件を併用する
- 通知期限は発生後5〜10営業日以内とする
- 免責効果は「履行停止」にとどめ、90日超継続で双方に解除権を付与する
交渉時のレッドライン vs トレードオフ:優先順位の付け方
売主にとっての絶対的レッドラインは「支配内リスクまで免責対象に含めさせること」、買主にとっては「支払義務の免除」を認めることです。これらは譲歩してはならない一線です。一方、通知期限や解除権の発動タイミングはトレードオフとして調整できる余地があります。
| 論点 | 売主有利 | バランス型 | 買主有利 |
|---|---|---|---|
| 対象事象の範囲 | 包括条項(広く) | 列挙+包括要件 | 限定列挙のみ |
| 通知期限 | 14日(暦日) | 5〜10営業日 | 3〜5営業日 |
| 免責効果 | 履行義務の消滅 | 履行停止のみ | 停止+支払義務は維持 |
| 解除権 | 売主のみ | 双方に90日超で付与 | 買主のみ・30日超で発動 |
| 経済的困難 | 含める | 明示除外 | 明示除外+コスト補償 |
交渉前に「絶対に譲れない点」と「調整可能な点」を社内で合意しておく。支払義務の免除可否、通知期限の許容範囲などを明確にする。
対象事象の範囲・通知期限・免責効果・解除権の4点を軸に、相手方の草案がどちらに有利かを評価する。
変更箇所を明示した修正案(redline draft)を提出し、各変更の理由を簡潔に添付することで交渉を効率化する。
通知期限や解除権発動タイミングなど調整可能な論点で相手に譲歩し、レッドライン部分を守る形でパッケージ合意を目指す。
- 「経済的困難・コスト上昇」が対象事象から明示除外されているか
- 支払義務がForce Majeureの免責範囲から切り離されているか
- 通知期限を過ぎた場合の効果(免責消滅か否か)が明記されているか
実務で使えるForce Majeure条項チェックリストとよくある失敗パターン
契約レビューの現場では、Force Majeure条項を「なんとなく確認した」で済ませてしまうケースが後を絶ちません。発動できるかどうかは条文の細部に宿っており、チェックすべき項目を体系的に押さえることが実務上の最大の防衛策です。
契約レビュー時の必須チェックリスト10項目
以下の10項目を契約レビュー時に必ず確認してください。
- 対象事象の定義範囲:列挙型か包括条項付きか。「including but not limited to」の有無を確認
- 発動要件の3要素:当事者の支配外・予見不能・回避不能の3要件がすべて明記されているか
- 通知期限・方法・必須記載事項:何日以内に、どの手段で、何を記載して通知するかが特定されているか
- 免責効果の種類:履行期限の猶予にとどまるか、履行義務そのものが消滅するか
- 支払義務の扱い:金銭債務が免責対象に含まれるか否かが明示されているか
- 軽減義務(Mitigation)の有無:影響最小化のための合理的努力義務が課されているか
- 継続期間の上限:Force Majeure状態が何日・何ヶ月続いた場合に次のステップに移行するか
- 解除権の発動条件・効果:一定期間経過後に解除権が生じるか、解除時の費用負担はどうなるか
- 準拠法:どの国・州の法律が適用されるか。法定の不可抗力概念が補完的に機能するかを確認
- 既存注文・仕掛品の扱い:発動時点で進行中の注文や製造途中の商品の帰属・費用負担が定められているか
よくある失敗パターンと回避策
- 通知期限超過で免責が認められなかった:「事象発生後5営業日以内」の条件を見落とし、通知が遅れて免責を主張できなかったケース。対策として通知期限をカレンダーに即時登録する運用ルールを設けること
- 包括条項がなく想定外の事象が対象外だった:列挙された事象のみで「other similar events」等の包括文言がなく、新たな事象が適用外とされたケース。交渉時に包括条項の挿入を必ず求めること
- 支払義務も免除されると誤解した:Force Majeureが発動しても金銭債務は原則として免除されないにもかかわらず、代金支払いを停止してしまったケース。支払義務の扱いを条文で明確に確認すること
準拠法による解釈の違い:コモンロー系 vs 大陸法系
準拠法の確認はForce Majeure条項のレビューと不可分です。同じ条文でも、どの国・州の法律が適用されるかによって解釈・補完のされ方が根本的に異なります。
| 比較項目 | コモンロー系(英国・米国法) | 大陸法系(フランス民法・CISG等) |
|---|---|---|
| Force Majeureの根拠 | 明文規定がなければ適用されない(契約文言の厳格解釈が原則) | 法定の不可抗力概念が補完的に機能する場合がある |
| 条文がない場合 | 原則として免責不可。Frustration法理が例外的に適用される場面は限定的 | 法律上の不可抗力規定(例:フランス民法1218条)やCISG79条が補完しうる |
| 条文解釈のスタンス | 列挙事象・要件・手続きを厳格に解釈。曖昧な文言は主張者に不利に解釈されやすい | 条文の趣旨・公平性を考慮した解釈が入りやすい |
| 実務上の留意点 | 条文の網羅性・手続き要件の明確化が最優先 | 準拠法の法定要件を把握したうえで契約条文との関係を整理する必要がある |
- CISGが適用される場合、Force Majeure条項がなくても免責されますか?
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CISG(国連国際物品売買条約)第79条は、当事者の支配外の障害によって履行が妨げられた場合に損害賠償責任を免除する規定を設けています。ただしこれは損害賠償免除にとどまり、履行義務そのものは消滅しません。また通知義務(相手方への速やかな通知)も課されています。CISGが適用される契約でも、より広い保護を得るためには明示的なForce Majeure条項を設けることが推奨されます。
- 準拠法が米国法の場合、Frustrationの法理はForce Majeureの代わりになりますか?
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米国法上のImpracticability(履行不能)やFrustration of Purposeの法理は存在しますが、適用要件は非常に厳格で、裁判所が認める場面は限定的です。Force Majeure条項がない場合のセーフティネットとしては機能しにくく、明文の条項を契約に盛り込むことが不可欠です。
- Force Majeure条項は売主と買主のどちらに有利な条項ですか?
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条文の設計次第でどちらにも有利・不利になります。対象事象が広く免責効果が強い条文は売主に有利で、限定列挙かつ支払義務除外が明記された条文は買主に有利です。自社の立場を踏まえて条文を精査し、必要に応じて修正を求めることが重要です。
- Force Majeureが発動した後、契約はどうなりますか?
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多くの場合、事象が継続する間は履行義務が停止(猶予)されます。事象が終息すれば義務が復活するのが一般的です。一定期間(例:90日)を超えて継続した場合は、双方または一方に解除権が生じる条項が設けられていることが多く、解除後の費用負担については契約の原状回復条項や準拠法に従って処理されます。

