気象予測・防災科学の国際連携プロジェクトで即戦力になる!数値予報モデル解析からリスクコミュニケーションまで現場で使える専門英語実践ガイド

国際気象・防災プロジェクトに参加する専門家にとって、数値予報の技術評価から防災情報の伝達まで、場面に応じた的確な英語コミュニケーションが成果を左右する。技術的な議論と政策提言という異なる場面を、同じ英語力で乗り切ることは難しい。本記事では、現場で頻出する3つのコミュニケーション場面を取り上げ、それぞれに求められる英語表現と情報の切り分け方を解説する。

目次

国際共同プロジェクトの現場で頻出する3つのコミュニケーション場面

3つの場面で 使う英語は どう変わる?。技術的議論の目的、進捗報告の目的、最終報告の目的、場面別の頻出表現

プロジェクトのライフサイクルを通じて、研究者や行政官が直面するコミュニケーションの場面は主に3つに分類できます。それぞれの目的と参加者の専門性が異なり、使用する英語の語彙、表現、さらには話の組み立て方までが変化します。ここでは、各場面の特徴と、求められるコミュニケーションのコアを押さえましょう。

技術的議論の具体例

ある数値予報モデルの改良について、各国の研究者がオンラインで議論している場面を想像してください。「新しい物理過程のパラメタリゼーションを導入したが、熱帯低気圧の進路予測に対して、バイアスは改善されたものの、予測誤差の分散が増加している。このトレードオフをどう評価すべきか?」といった具体的な課題について、データを示しながら意見を交換します。

技術的議論:モデル出力と不確実性の評価

この場面の参加者は、気象学や数値計算の専門家が中心となります。目的は、科学的・技術的な課題を深く掘り下げ、次の研究方針を決めることです。使用する英語は、専門用語が多く、仮定や条件を明確に示すことが重要になります。

議論では、「モデルの出力 (model output)」の評価が焦点となります。例えば、予測の精度を「バイアス (bias)」や「二乗平均平方根誤差 (Root Mean Square Error, RMSE)」などの指標で定量化します。不確実性を議論する際は、「アンサンブル予測 (ensemble forecast)」の「スプレッド (spread)」や「信頼区間 (confidence interval)」といった概念が頻出します。単に結果を述べるだけでなく、「〜という条件では (under the condition that…)」「〜を仮定すると (assuming that…)」と前提を明確にすることが、誤解を防ぐ鍵です。

場面目的頻出表現の例
技術的議論科学的課題の解決“The parameterization scheme appears to reduce the wet bias, but it increases the false alarm rate for heavy rainfall.” 「そのパラメタリゼーション手法は湿潤バイアスを低減するようだが、大雨の空振り率を増加させている。」
中期的報告進捗の共有と調整“We are on track to complete the sensitivity analysis by the end of this phase.” 「感度分析はこのフェーズ終了までに完了する見込みです。」
最終成果の伝達行動の促しと意思決定支援“The model indicates a heightened probability of extreme precipitation; therefore, early warning dissemination is advised.” 「モデルは極端な降水の確率が高まっていることを示している。したがって、早期警報の伝達が推奨される。」

中期的報告:プロジェクト進捗と予測結果の共有

定例の報告会や進捗確認の場では、プロジェクトマネージャーや資金提供者を含む、より広い範囲の関係者が参加します。目的は、計画に対する進捗状況を透明に共有し、必要に応じてリソースやスケジュールを調整することです。技術的詳細よりも、マイルストーンに対する達成度と、今後の計画が明確であることが求められます。

ここで使われる英語は、技術的議論よりも平易になり、プロジェクト管理の一般的な語彙が増えます。「達成した (achieved, completed)」「遅れている (behind schedule)」「順調である (on track)」といった進捗を示す表現に加え、「直面している課題 (challenges we are facing)」や「必要な支援 (required support)」を率直に伝えることも重要です。予測結果を共有する際は、専門家ではない聴衆にも分かるように、複雑なグラフや数値ではなく、主要な結論とその実用的な意味合いを簡潔にまとめるスキルが試されます。

進捗報告のポイント

「何が(計画に対して)できたか」「何ができていないか(およびその理由)」「次に何をする予定か」の3点を明確に伝えます。技術的課題の説明は原因と影響に絞り、過度に詳細に立ち入らないようにしましょう。聴衆がプロジェクトの全体像を把握できることが最優先です。

最終成果の伝達:政策提言とリスクコミュニケーション

プロジェクトの最終段階では、研究成果を政策担当者や防災関係者、時には一般市民に向けて伝えます。ここでの目的は、科学的知見に基づいて具体的な行動を促すこと、つまり「リスクコミュニケーション」にあります。参加者の専門性は多様で、科学のバックグラウンドを持たない人も多いです。

使用する英語は、技術的な不確実性(「〜の可能性がある」)を保ちつつも、メッセージを明確で実行可能なものにすることが極めて重要です。「確率 (probability)」「影響 (impact)」「推奨される措置 (recommended actions)」がキーワードとなります。例えば、「30%の確率で基準を超える降雨が予測される」という事実だけでなく、「河川の水位監視を強化し、低平地の住民に対して避難準備情報を発令することが望ましい」といった、次のステップを示すことが必要です。専門用語は避け、比喩や具体例を使ってリスクを実感できるように伝える技術が求められます。

3つの場面を俯瞰すると、専門性の高い技術議論から、一般向けの行動喚起へと、コミュニケーションの目的と対象がシフトしていきます。これに応じて、使用する語彙の専門性を下げ、メッセージの明確性と実用性を高めることが、国際プロジェクトで成果を出すための必須スキルと言えます。

数値予報モデルの出力を英語で読み解き、評価する

モデル性能を 英語で客観的に 評価するには。定量指標の言い回し、相関の強さの表現、不確実性の伝え方、主観評価の避け方

モデルの性能を客観的に評価し、その結果を英語で議論することは、共同研究の基盤となる信頼関係を築く第一歩です。定量指標を用いた評価は、主観的な印象ではなく、共通の事実に基づいた建設的な対話を可能にします。ここでは、RMSE(二乗平均平方根誤差)や相関係数などの検証指標の適切な言い回し、アンサンブル予測の不確実性の伝え方、そして異なる解像度のモデル結果を比較する際の注意点を、具体的な英語表現とともに解説します。

モデル性能を定量的に議論する表現

モデルの評価では、指標の名前を述べるだけでなく、その数値が何を意味し、どの程度の性能を示すのかを明確に伝えることが重要です。単に「RMSEが小さい」と言うのではなく、文脈に応じた表現を使い分けます。

The model shows a relatively low Root Mean Square Error (RMSE) of 2.5°C for surface temperature over the target region.
(このモデルは、対象領域の地表気温について、2.5°Cという比較的低いRMSEを示しています。)

この文では「比較的低い」という評価を含めています。より客観的に伝えたい場合は、「shows an RMSE of …」と事実だけを述べ、その数値の良し悪しは文脈や聞き手の判断に委ねる方法もあります。相関係数を説明する際は、「強い相関」の度合いを表現する語彙を覚えておきましょう。

  • strong positive correlation (強い正の相関: 0.7から1.0に近い)
  • moderate correlation (中程度の相関: 0.4から0.7程度)
  • weak or no significant correlation (弱い、または有意な相関なし: 0.4以下)
表現の落とし穴

「The model’s performance is good.」のような主観的な評価だけに頼るのは危険です。必ず「good」の根拠となる定量指標(例: 「…because the correlation coefficient exceeds 0.8.」)を添える習慣をつけましょう。また、「精度が高い」は「high accuracy」と表現できますが、どの変数に対する精度なのかを明確にします(例: 「high accuracy in predicting precipitation amount」)。

アンサンブル予測から不確実性を説明する

1つの初期値から計算する「決定論的予報」と異なり、複数の初期値のわずかな違いから計算を始める「アンサンブル予報」では、予測結果に幅(不確実性)が生じます。この不確実性を英語で的確に伝える能力は、防災情報の伝達において特に重要です。

アンサンブルメンバー間の結果の広がりを説明する際は、「spread」(広がり)、「range」(範囲)、「divergence」(発散)といった単語を使います。また、確率や可能性を表現する定型フレーズを活用します。

The ensemble forecast indicates a wide spread in the predicted track after 72 hours, reflecting high uncertainty.
(アンサンブル予報は、72時間後の予測進路に大きな広がりを示しており、不確実性が高いことを反映しています。)

There is a high probability (over 70%) of exceeding the 50mm rainfall threshold in the eastern part.
(東部では、50mmの降雨量閾値を超える可能性が高い(70パーセント以上)。)

不確実性を伝える頻出フレーズ

  • …with a certain degree of confidence. (ある程度の信頼度をもって)
  • The most likely scenario is… (最も可能性の高いシナリオは…)
  • We cannot rule out the possibility of… (…の可能性を排除できない)
  • The confidence level is low for this prediction. (この予測に対する信頼度は低い)

バイアス補正とダウンスケーリングの結果を伝える

全球モデルなど解像度の粗いモデルの出力を、より細かい地域の予報に活用するためには、バイアス補正やダウンスケーリング(統計的ダウンスケーリングや動力学的ダウンスケーリング)が行われます。この処理結果を説明する際は、「何を」「どのように」「どの程度改善したか」を明確にすることが鍵です。

After applying quantile mapping for bias correction, the systematic cold bias in winter temperature was significantly reduced.
(バイアス補正のために分位マッピングを適用した後、冬季気温の系統的な低温バイアスは大幅に低減されました。)

異なる解像度のモデル結果を比較・評価する際の最大の注意点は、「解像度の違いそのものが結果の違いの主原因となっていないか」を常に意識することです。高解像度モデルは地形の影響をより詳細に表現できるため、降水の空間分布などが劇的に改善されることがあります。このことを英語で説明するには、以下のような表現が役立ちます。

The high-resolution model (5km) better captures the orographic enhancement of precipitation on the windward side of the mountains compared to the global model (50km).
(高解像度モデル(5km)は、全球モデル(50km)と比較して、山脈の風上側での地形性降水増強をより良く再現しています。)

解像度の違いによる見かけ上の性能差について言及する必要がある時は、「It should be noted that…」(…であることに留意すべきである)や「This difference can be partly attributed to…」(この違いの一部は…に起因すると考えられる)といった表現で前置きをします。

知っておきたいこと

「バイアス補正」は「bias correction」または「bias adjustment」です。「ダウンスケーリング」は「downscaling」で通じますが、方法を明確にするために「statistical downscaling」(統計的ダウンスケーリング)や「dynamical downscaling」(動力学的ダウンスケーリング)と述べるとより正確です。評価の文脈では、「improve」(改善する)、「reduce the bias」(バイアスを低減する)、「enhance the representation」(表現を向上させる)などの動詞を積極的に使いましょう。

定量的な評価に基づき、モデルの強みと限界を英語で明確に伝えられるようになれば、国際的なプロジェクトにおける技術的な議論において、より主体的かつ建設的な役割を果たせるようになるでしょう。

科学的知見を「リスク情報」に変換して伝達する

数値データを 行動に結びつける 伝え方。確率の段階的表現、影響の具体化、警戒レベルへの連結、明確な行動喚起

数値予報モデルが出力する物理量は、そのままでは行政担当者や住民の避難行動には結びつきません。専門家の最大の役割は、数値データを「誰が」「いつ」「何をすべきか」という具体的なリスク情報へと翻訳し、意思決定に直結する形で伝えることです。この翻訳プロセスでは、不確実性の扱い方、受け手の立場に応じた情報の切り口、そして行動を促す明確なメッセージが鍵となります。ここでは、科学的知見を効果的な防災情報へと昇華させるための英語コミュニケーション手法を解説します。

確率的情報を段階的かつ明確に伝えるフレームワーク

「可能性がある」という曖昧な表現は、受け手によって解釈が大きく異なり、誤った判断を招きます。リスク情報を伝える際は、予測の確からしさ(確率)と、発生した場合の影響の大きさ(深刻度)の2軸で表現の強弱をコントロールすることが基本です。

STEP
予測の確からしさを段階的に表現する
  • Low probability / A slight chance of… (可能性は低い / …の可能性がわずかにある): アンサンブル予測のごく一部で示唆される場合。
  • There is a possibility that… (…の可能性がある): 確率が30〜50%程度、不確実性が高い段階。
  • …is likely / There is a high likelihood of… (…が起こりそうだ / …の可能性が高い): 確率が60〜70%以上。モデルの合意度が高いことを示す。
  • …is expected / It is very likely that… (…が予想される / …が非常に起こりそうだ): 確率が80%以上。確信度が非常に高い段階で、計画や準備の根拠として使用。
STEP
影響の深刻さを具体的な事象で補足する

確率表現とセットで、発生した場合の具体的な影響を述べます。これにより、抽象的な「リスク」が「自らの生活にどのような影響を与えるか」がイメージできます。

  • 弱い表現: “…which may cause some disruption.” (いくつかの混乱を引き起こすかもしれない)
  • 強い表現: “…posing a serious threat to life and property, particularly in low-lying areas.” (特に低地において、生命と財産に深刻な脅威をもたらす)

確率と影響の表現を組み合わせることで、「起こるかどうかわからないが、万一起きたら甚大な被害」といったリスクの本質を、誤解なく伝えられます。

「警戒レベル」や「行動喚起」に直結する表現

情報の最終的な着地点は、受け手の行動です。行政担当者向けには「判断材料」を、一般住民向けには「取るべき行動」を明確に示す必要があります。

情報の受け手によって、伝えるべき「粒度」と「焦点」が変わります。

行政担当者向けのコミュニケーションでは、判断の根拠となる時空間的な詳細情報が求められます。

  • “The peak river level at [Location A] is forecast to exceed the warning level around 18:00 UTC, with an uncertainty of +/- 2 hours.” (A地点での河川水位のピークは協定世界時18時前後に警告レベルを超えると予測されており、不確実性は±2時間です。)
  • “This provides a strong basis for considering the issuance of an evacuation order for communities along the lower reaches.” (これは下流地域のコミュニティに対する避難指示の発令を検討する強力な根拠となります。)

一方、一般住民向けのメッセージは、行動に直結する簡潔な表現が命です。

  • “If you are in [Area X], you should evacuate to higher ground immediately.” (X地区にいる方は、直ちに高台へ避難してください。)
  • “Do not wait. The situation is rapidly deteriorating.” (待たないでください。状況は急速に悪化しています。)

避難判断に影響を与える「トリガー」情報は、具体的な現象や数値で示します。「雨が強くなったら」ではなく、「1時間に50ミリを超える雨が観測されたら」というように、誰もが共通認識を持てる指標が重要です。

専門用語を避けるべき場面とその言い換え例

専門家同士の議論で使う用語は、一般向けの情報伝達では混乱や誤解の元になります。伝達の目的は「正確さ」だけでなく「理解と適切な行動」です。以下の表を参考に、専門用語を平易な表現に言い換える習慣を身につけましょう。

専門用語・表現平易な言い換え例 (一般向け / 行政担当者向け)
Precipitation anomalies「平年より多い(少ない)雨量」
「予測される降水量が平均値を上回る(下回る)地域」
Ensemble spread is large.「予測に幅があり、どこで最も激しくなるかはまだはっきりしません。」
「アンサンブル予測メンバーのばらつきが大きく、予測の不確実性が高い状態です。」
Atmospheric river「大量の水蒸気が流れ込む帯状の領域」
「長く伸びた水蒸気の流れ(大気の川)が接近しており、これに伴い大雨が予想されます。」
Storm surge inundation「台風による高潮で海面が上昇し、陸地に海水が流れ込むこと」
「高潮による浸水が想定される地域」
The model initialized at…「最新の予測では…」
「特定の時刻を初期値としたモデル計算の結果では…」
知っておきたいこと

「アンサンブル予測」という用語そのものを説明する必要がある場合は、「複数の少しずつ異なる予測を組み合わせて、天候の可能性の幅を見る手法」と説明できます。しかし、多くの場合、その仕組みではなく「予測にはまだ幅があります」という結果と意味を伝えることが優先です。

科学的な厳密さを犠牲にせず、受け手が持つ文脈と言語リソースの中で最も効果的に意味が伝わる表現を選ぶ。これが、専門家としての責任であり、国際プロジェクトで信頼を築くコミュニケーションの核心です。数値予報の評価から始まったあなたの仕事は、誰かの安全な行動という形で、ようやく完結します。

プロジェクト会議で使える実践的なディスカッション英語

意見の対立を 建設的な結論に 導く英語。成果と課題の報告、暫定結論の述べ方、異なる見解への対応、合意形成の表現

数値予報モデルの評価結果やリスク情報を共有した後、チームで次のアクションを決めるのがプロジェクト会議です。ここでは、科学的な不確実性を含み、時には意見の対立もある中で、建設的な結論へと導くための英語表現に焦点を当てます。単に報告を聞く場ではなく、参加者全員が知見を持ち寄り、次のアクションを明確にする場として、国際会議を実践の場に変えるコミュニケーション術を身につけましょう。

成果と課題をバランスよく報告する

会議では、成果だけを強調しても、課題だけを並べても信頼は得られません。両方をバランスよく伝えることが、誠実で透明性の高い共同作業の基本です。特に、限られたデータに基づく暫定的な結論を述べる際は、その前提条件を明確にすることが重要です。

  • 成果の報告: “The ensemble forecast successfully captured the general trend of the pressure system.” (アンサンブル予報は、気圧系の大まかな傾向をうまく捉えました。)
  • 課題の指摘: “However, there remains a systematic bias in precipitation intensity over mountainous regions.” (しかし、山岳地帯での降水強度には系統的なバイアスが残っています。)
  • 暫定結論の述べ方: “Based on the preliminary analysis of the last three cases, it appears that the higher resolution model improves local detail, but this needs further verification.” (過去3事例の予備的分析に基づくと、どうやら高解像度モデルは局所的な詳細を改善するようです。ただし、これはさらなる検証が必要です。)

「it seems that…」「our initial findings suggest…」「the current data indicates…」といった表現は、断定を避けつつ意見を示すのに便利です。

異なる解釈や不確実性について建設的に議論する

専門家が集まれば、データの解釈や不確実性の扱い方について異なる見解が出るのは自然なことです。重要なのは、意見の相違を対立としてではなく、より深い理解への入り口として捉え、議論を前に進めることです。

会議シミュレーション:不確実性への対応

A: “I see your point about the model bias. However, I interpret the spread in the ensemble members differently. To me, it reflects the inherent uncertainty in the initial conditions rather than a model flaw.”
B: “That’s a valid perspective. Perhaps we can test this by comparing the ensemble spread against the observational error. Would you agree to design a joint experiment to clarify this?”
A: “Absolutely. That sounds like a constructive way forward.”

上記のダイアログで鍵となっているのは、「I see your point」(ご意見は理解しました)、「That’s a valid perspective」(それは妥当な見方です)のように、まず相手の意見を認める表現です。その上で、「I interpret … differently」(私は…と別の解釈をします)や「Perhaps we can…」(おそらく私たちは…できるでしょう)と、代替案や協業の提案へと繋げています。

反対意見や強い懸念が表明された時は、どう対応すれば良いですか?

「I understand your concern. Could you help us understand what a minimum acceptable outcome would look like from your standpoint?」(ご懸念は理解しました。あなたの立場から見て、最低限許容できる結果がどのようなものか、ご説明いただけませんか?)と言いながら、問題を具体的にし、共通の解決策を探る姿勢を示します。相手を否定するのではなく、その懸念をプロジェクトの制約条件の一つとして取り込み、建設的な解決策を共に探る姿勢が国際協力では評価されます。

合意形成と今後の方針を確認する

活発な議論の末、最も重要なのは「では、次に何をするか」を全員で明確にし、責任の所在を確認することです。曖昧なまま会議を終えると、進捗が止まってしまいます。

  1. 合意の確認: “So, if I may summarize, we are all in agreement to prioritize the verification of the coastal flood risk scenario for the next phase?” (では、まとめさせてください。次のフェーズでは沿岸洪水リスクシナリオの検証を優先することに、全員が合意していますね?)
  2. アクションアイテムの明確化: “The action item from this discussion is to compile a comparative report between Model A and B. John, would you take the lead on this?” (この議論からのアクションアイテムは、モデルAとBの比較レポートを作成することです。ジョン、こちらを主導していただけますか?)
  3. 期限と次のステップの確認: “Could we aim to share the first draft by the end of next month? We can then review it in our next scheduled call.” (来月末までに初稿を共有することを目標にしましょうか?その後、次回の定例会議でレビューできます。)

会議の最後には、決定事項とアクションアイテム(誰が、何を、いつまでに)を口頭で復唱し、議事録に明記するよう提案しましょう。これが、国際プロジェクトを確実に前進させるための最もシンプルで強力な習慣です。

書面での情報共有:技術文書から政策提言書まで

プロジェクト会議での議論を経て決定した知見や提言は、最終的に文書として形に残し、広く共有されます。国際的な共同研究や政策立案の場では、書面でのコミュニケーションが意思決定の根拠となるため、その品質と明確さが最終的な成果に直結します。ここでは、査読対応から政策決定者向けの要約まで、現場で求められる実践的な文書作成英語を解説します。

共同研究論文の査読コメントへの対応

国際学術誌への投稿は、専門性の高い査読者からのフィードバックを経て完成します。指摘に丁寧に対応し、修正内容を明確に説明することが、論文受理への鍵です。

  • 感謝の意を示す:最初に査読者の時間と建設的なコメントに対して謝意を表します。
  • 指摘を要約して受け止める:コメントの要点を自分の言葉で簡潔にまとめ、理解を示します。
  • 具体的な対応を説明する:どのように修正したか、あるいは修正しなかった理由を、具体的に示します。

査読者への返信は、修正箇所を明示した修正済み原稿とセットで提出するのが一般的です。修正箇所はハイライトするなど、確認しやすくします。

避けるべきあいまいな表現
  • 「検討します」「改善を試みます」 → 具体的なアクションが見えない。
  • 「おそらく〜でしょう」 → 科学的根拠に欠ける印象を与える。
  • 「一般的に知られている通り」 → 出典を示さない主張は弱い。

技術報告書の要約(Executive Summary)の書き方

数十ページに及ぶ詳細な技術報告書の核心を、忙しい意思決定者に1ページで伝えるのがエグゼクティブサマリーです。「背景・目的」「主な手法と発見」「結論と提言」の3部構成が基本です。長い報告書を要約する技術は、プロジェクトの成果を効果的にアピールするために不可欠です。

書き方は、報告書本体を全て書き終えた後、各章の要点を抽出することから始めます。数値予報モデルの評価報告であれば、検証したモデル名、使用データ、主要な評価指標とその結果、顕著な課題を簡潔に列挙します。専門用語は最小限にし、グラフや表の参照を示すことで詳細への導線を作ります。

【Executive Summary アウトライン例】
1. Background and Objectives
 - プロジェクトの背景と解決すべき課題の提示。
2. Methodology and Key Findings
 - 使用した数値予報モデルと検証データの概要。
 - 主要な評価指標(例:RMSE, Bias)による性能評価結果のハイライト。
 - 特定の気象現象(例:集中豪雨)予測における顕著な強みと課題。
3. Conclusions and Recommendations
 - 得られた知見の総括。
 - 今後のモデル開発または運用への具体的な提言。

政策決定者向け概要資料(Policy Brief)の構成と表現

科学者から行政担当者へ。政策提言書は、科学的知見を具体的な施策へと翻訳する最終段階の文書です。複雑なデータを、政策の選択肢とその期待される影響に結びつけて提示します。

最大のポイントは「So what?(それでどうなるの?)」に答えることです。例えば、「モデルAは降水予測の精度が10パーセント向上した」という事実から、「それにより、洪水警報のリードタイムが30分延長され、避難勧告の発令判断がより確実になる」という政策上の意味合いを導き出します。

  1. 問題の定義:扱う気象・防災上の課題と、その社会的・経済的影響を簡潔に説明。
  2. 科学的根拠:最新の研究やプロジェクトの成果から得られた主要な証拠を提示。
  3. 政策オプション:考えられる複数の対策案を、メリットとデメリットとともに示す。
  4. 推奨事項:科学的証拠に基づき、最も効果的と判断される選択肢を明確に推薦。

推薦を述べる際は、「We recommend that…」 や 「It is suggested to…」 といった表現を使い、その理由を「because…」や「as it would lead to…」で続けます。あいまいさを排した断言と、その根拠の明示が、政策決定者を動かす説得力につながります。

著者プロフィール

大学受験・英語資格試験塾講師。大学時代にアメリカへ1年間留学。卒業後は海外書籍を取り扱う出版社で編集職に6年間従事した後、英語教育の現場へ転身。大学受験生向けや、社会人の英語資格試験対策の講義を担当し、実践的で分かりやすい解説に定評がある。出版社時代に様々なジャンルの英語書籍を担当した経験から、法律から工学まで業界特有の英語表現やビジネス英語に関する幅広い知識を持つ。また、二児の母という立場から、実体験に基づいた子どもの英語教育に関する発信も行っている。

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