国際的な獣医学・小動物臨床でコミュニケーションを円滑にする Clinical Veterinary English 実践ガイド 診断プロセスから飼い主説明、多職種連携まで現場で使える専門表現

小動物臨床で英語を使う際の第一歩は、「患者自身が症状を話せない」という前提を飼い主や同僚と共有することです。この状況を正確に伝え、飼い主の観察から臨床的な情報を引き出す英語表現を身につけることで、信頼できるコミュニケーションの基盤が築けます。

目次

動物が患者であることの難しさを英語でどう伝えるか

動物は話せない 前提から始める。患者は話せない前提、オープン質問で全体像、クローズド質問で確認、観察を臨床用語に

小動物臨床におけるコミュニケーションの最大の特徴は、患者である動物が、自身の体調や痛みを言葉で伝えられないことです。この前提を英語で明確に示すことで、飼い主も「間接的な情報提供者」としての役割を理解し、協力的な姿勢になりやすくなります。また、多職種チーム(獣医師、動物看護師、受付スタッフ)間でも、この共通認識を持つことが連携の第一歩です。以下では、この特殊な状況下で必要な英語コミュニケーションの技術を、具体的なフレーズとともに解説します。

間接的情報収集の3原則
  • 共有する:動物は話せないという前提 (The patient cannot tell us what’s wrong.)
  • 引き出す:飼い主の観察を具体的な質問で引き出す (What changes have you noticed?)
  • 変換する:飼い主の言葉を臨床的に意味のある記述に変換する (“Lethargic” instead of “a bit down.”)

飼い主から間接的に症状を聞き取る英語表現

飼い主は動物の一番の観察者です。彼らの話を引き出すには、オープンクエスチョンから始め、必要に応じてクローズドクエスチョンで具体化していくのが効果的です。

オープンクエスチョンで観察の全体像を把握する

  • Could you tell me what brought you in today?(今日はどうされましたか?)
    最も標準的な問診の始め方です。
  • What changes have you noticed in [pet’s name] recently?(最近、[ペット名]にどんな変化がありましたか?)
    「変化」に焦点を当て、飼い主に自由に話してもらいます。
  • When did you first notice something was different?(最初に何か違うと気づいたのはいつですか?)
    症状の発現時期を特定する重要な質問です。

クローズドクエスチョンで重要な情報を確認する

  • Has [pet’s name] been eating and drinking normally?(食欲と水飲みは普通ですか?)
  • Have there been any changes in urination or bowel movements?(おしっこやうんちに変化はありますか?)
  • Is he/she showing any signs of pain, like whining or reluctance to move?(鳴いたり動くのを嫌がるなど、痛みの兆候はありますか?)

病歴聴取で使える質問フレーズとその意図

病歴聴取は、過去の健康状態や治療歴を把握するための重要なプロセスです。質問には、情報を引き出す意図を明確に持つことが求められます。

  • Past medical history: “Has [pet’s name] had any medical issues or surgeries in the past?”(過去に病気や手術の経験は?)
    意図:基礎疾患や麻酔リスクの有無を確認する。
  • Medication and vaccination: “Is [pet’s name] currently on any medication? Are vaccinations up to date?”(現在の投薬とワクチン接種状況は?)
    意図:薬剤相互作用や感染症リスクを評価する。
  • Environment and diet: “Could you describe [pet’s name]’s daily routine and diet?”(日常生活と食事内容は?)
    意図:行動変化の背景や栄養状態を理解する。

飼い主が「よくわからない」と答えることもあります。その場合は、“That’s perfectly fine. Any information you can remember is helpful.”(大丈夫です。覚えている範囲の情報で結構です)と伝え、心理的なハードルを下げましょう。

動物の行動や様子を客観的に記述する英語

飼い主の表現は主観的で曖昧な場合が多く、これを客観的で臨床的な英語に「翻訳」する能力が重要です。カルテへの記録やチーム内での情報共有の精度が飛躍的に向上します。

飼い主の表現(日本語/主観的)臨床的英語表現(客観的)補足・具体例
元気がないLethargic / Depressed遊びたがらない、寝てばかりいる状態。”The patient appears lethargic, showing decreased interest in surroundings.”
食欲がないAnorexic / InappetentAnorexicは完全拒食、Inappetentは食欲減退。”The patient is inappetent, eating less than 50% of its usual amount.”
ちょっと吐いたVomited / RegurgitatedVomited(嘔吐:腹部の収縮を伴う)、Regurgitated(吐出:無理なく出る)。回数と内容物も記述。
足をひきずっているLimping / Lameness「Limping on the left forelimb」(左前肢をひきずっている)のように患肢を特定する。

これらの表現を使いこなすためには、動物の正常な行動(基準)を知っておく必要があります。例えば、”Polydipsia”(多飲)と記述するには、その動物の通常の水の摂取量を知っているか、飼い主に「普段の倍以上飲んでいますか?」(“Is he/she drinking more than twice the usual amount?”)と確認する必要があります。客観的記述は、観察事実と基準の比較から生まれるのです。

診断プロセスと検査結果を飼い主に説明する英語

具体的な症状から診断を進め、その結果を飼い主に伝えることは、臨床における信頼構築の中心です。鑑別診断の考え方、検査の必要性、そして結果の解釈を、専門用語に頼らず明確に説明する表現を身につけましょう。

鑑別診断の考え方を英語でわかりやすく伝える

獣医師が頭の中で行っている診断のプロセスを、飼い主と共有することが第一歩です。「可能性のある原因をリストアップし、検査で絞り込んでいく」という考え方を伝えることで、飼い主は診断が論理的なステップであることを理解できます。

  • “Based on your pet’s symptoms, we are considering several possibilities.” (ペットの症状に基づいて、いくつかの可能性を考えています)
  • “It could be A, B, or C. To know for sure, we need to gather more information.” (A、B、Cの可能性があります。確実に知るためには、さらなる情報が必要です)

この段階では、「”ruling out” (可能性を除外していく)」という概念が重要になります。確定診断よりも先に、深刻な病気でないことを確認するプロセスを説明すると、飼い主の不安を和らげられます。

ポイント:鑑別診断の伝え方

「可能性を絞り込む」というプロセスを視覚的に説明すると効果的です。「可能性A」、「可能性B」、「可能性C」と書いた箱をイメージさせ、検査のたびに箱が一つずつ消えていく様子を伝えましょう。これにより、検査の目的が明確になります。

検査の必要性とリスクを説明する定型表現

検査を提案する際は、その目的と飼い主が負担するリスク(時間、費用、麻酔のリスクなど)を必ずセットで説明します。「なぜ今、この検査が必要なのか」を飼い主の視点に立って伝えることが大切です。

STEP
検査結果説明の4ステップ
  1. 検査の目的を明確にする
    「We need this test to see if the kidneys are working properly.」(腎臓がきちんと機能しているか確認するためにこの検査が必要です)
  2. 結果の可能性を事前に共有する
    「The results could be normal, show a minor issue, or indicate something more serious. We will discuss what each result means.」(結果は正常、軽度の問題、あるいはより深刻なもののいずれかです。それぞれの結果が意味することを説明します)
  3. 専門用語を平易に言い換える
    「A CBC (Complete Blood Count) checks the number and types of cells in the blood.」(血液検査は血液中の細胞の数と種類を調べます)
  4. 次の行動を提示する
    「Once we have the results, we can decide on the next step together.」(結果が出たら、一緒に次のステップを決めましょう)

専門用語を避け、具体的なイメージが湧く表現を使います。「血液検査」は「a blood test」、「レントゲン検査」は「taking pictures of the inside」と言い換えることもできます。

検査結果の解釈と不確実性を伝えるコミュニケーション

検査結果は必ずしも白黒はっきりするものではありません。「正常範囲内」「異常がある」「確定診断には至らない」という3つのケースそれぞれで、飼い主が次に取るべき行動を明確に伝える表現が必要です。

結果が「正常範囲内」の場合でも、「すべて問題ない」と断定せず、症状の原因を探るプロセスの一部であることを伝えましょう。

  • 正常範囲内 (Within normal limits): “The test results are within the normal range. This is good news, but it means we need to look further to find the cause of the symptoms.”(検査結果は正常範囲内です。これは良い知らせですが、症状の原因をさらに探る必要があることを意味します)
  • 異常を認める (Abnormal findings): “The results show that the liver values are higher than normal. This tells us we need to focus on the liver.”(結果は肝臓の数値が通常より高いことを示しています。これは肝臓に焦点を当てる必要があることを教えてくれます)
  • 不確実/グレーゾーン (Inconclusive/Uncertain): “The results are not clear enough to give a definite diagnosis. It could be early stage of A, or it might be something else. I recommend we do another test/monitor closely for now.”(結果は明確な診断を下すには不十分です。Aの初期段階の可能性も、別の何かである可能性もあります。追加の検査を行うこと、またはしばらく慎重に経過を観察することをお勧めします)

獣医師は、飼い主に検査のリスクをどう説明すべき?

リスクは具体的に列挙し、それぞれの発生確率と対処法を伝えます。「This test requires a short anesthesia. There is a very small risk of complications, but we monitor closely throughout the procedure.」(この検査には短時間の麻酔が必要です。合併症のリスクはごくわずかですが、手順全体を通して注意深くモニタリングします)というように、リスクを過小評価せず、かつ過剰に不安をあおらないバランスが重要です。

飼い主が「検査結果がよくわかりません」と言ったら?

専門用語を避け、比喩や図を使って説明し直します。「Let me explain it in a different way. Imagine the kidneys as a filter…」(別の言い方で説明しましょう。腎臓をフィルターだと想像してください…)と切り出し、結果がペットの体の中で何を意味するのかに焦点を当てて話します。そして必ず「Does that make sense?」(お分かりになりますか?)と確認を取ります。

検査結果の説明は、単なる情報伝達ではなく、飼い主と獣医師が共同で治療方針を決定するための対話の始まりです。結果の不確実性を隠さずに正直に伝え、次の選択肢を一緒に考える姿勢を示す英語表現を用意しておくことが、長期的な信頼関係を築く礎となります。

治療方針の選択とインフォームドコンセントを英語で行う

治療選択肢を 比較して提示する。選択肢を番号で整理、メリットを具体的に、リスクと予後を正直に、費用を明確に伝える

診断が確定した後、最も重要なコミュニケーションが始まります。それは、患者である動物に代わって、飼い主が「どのような治療を選ぶか」を決めるプロセスです。獣医療におけるインフォームドコンセントは、単に同意書に署名をもらうことではありません。動物の代弁者である飼い主が、治療のメリットとデメリット、予後、費用、そして倫理的判断を含めた十分な情報を得た上で、主体的に意思決定できるよう支援することです。この複雑な対話を英語で行うための表現とアプローチを身につけましょう。

複数の治療オプションを比較して提示する英語表現

飼い主に選択肢を示す際は、「AかB」という二者択一ではなく、可能性のあるすべての道筋を並べて提示することが信頼構築の第一歩です。その際、決断を急かすのではなく、情報を整理して伝える姿勢が英語の表現にも表れます。

  • 「現在、主に3つの治療の選択肢があります。それぞれ詳しくご説明します。」
    “We have three main treatment options to consider at this point. Let me go through each one in detail.”
  • 「最も積極的な治療から、症状を和らげることに焦点を当てたアプローチまで、段階的にお話しします。」
    “I’d like to outline the options, ranging from the most aggressive treatment to an approach focused more on managing symptoms.”
  • 「一つ目の選択肢は手術です。二つ目は内科治療(薬物療法)です。三つ目は緩和ケアです。」
    “Option one is surgery. Option two is medical management with medication. Option three is palliative care.”

このように、選択肢を番号で整理し、その内容を明確に定義することで、飼い主は混乱せずに情報を比較できます。

治療のメリット・デメリット・予後・費用を説明する

各選択肢について、飼い主が判断するために必要な4つの要素を、正直に、かつバランスよく説明します。専門用語は避け、具体的なイメージが湧く表現を心がけます。

説明項目英語表現の例とポイント
メリット (Benefits)“This surgery offers the best chance for a complete cure.” (根治の可能性が最も高い)
“Medication can effectively control the pain and improve quality of life.” (痛みを効果的にコントロールし生活の質を向上できる)
デメリット・リスク (Risks/Side Effects)“The main risks are infection and complications from anesthesia, though the overall rate is low.” (主なリスクは感染と麻酔関連の合併症だが、全体的な発生率は低い)
“A potential side effect of this drug is increased thirst and appetite.” (この薬の潜在的な副作用は、喉の渇きと食欲の増加です)
予後 (Prognosis)“With successful surgery, we expect a good long-term outcome.” (手術が成功すれば、良好な長期予後が期待できる)
“This is a chronic condition, so the goal is management, not cure.” (これは慢性疾患なので、目標は治療ではなく症状の管理です)
費用 (Cost)“The estimated cost for the surgery, including hospitalization, is around [amount].” (入院費を含む手術の概算費用は[金額]程度です)
“Ongoing medication will cost approximately [amount] per month.” (継続的な投薬は月に約[金額]かかります)

費用については、あくまで「概算 (estimate)」であることを明確にし、想定外の事態で変動する可能性があることも伝えておきましょう。

倫理的判断を説明する際のキーフレーズ

安楽死 (euthanasia) や積極的治療の中止といった難しい話題に触れる際は、飼い主の感情に配慮した表現が不可欠です。
“We need to consider what is in [Pet’s Name]’s best interest, focusing on quality of life rather than just length of life.” (「[ペットの名前]にとって何が最善か、寿命の長さだけでなく生活の質に焦点を当てて考える必要があります」)
“This is not about giving up, but about making a compassionate choice to prevent further suffering.” (「これは諦めることではなく、これ以上の苦しみを防ぐための思いやりのある選択をすることです」)

飼い主の価値観や経済的状況を考慮した意思決定支援

特に「先生にお任せします」と言われる場合、その背景には不安、情報不足、または決定責任からの逃避があるかもしれません。このような飼い主を意思決定プロセスに巻き込むことが、真のインフォームドコンセントです。

飼い主自身の考えや価値観を引き出す質問を投げかけましょう。これは「お任せ」の姿勢を変える第一歩です。

  • “What are your main hopes for [Pet’s Name]’s treatment?” (治療に対して、どのようなことを一番望んでいますか?)
  • “Are there any concerns you have, whether about the procedure, recovery, or cost?” (処置、回復、費用について、何か心配なことはありますか?)
  • “Thinking about [Pet’s Name]’s daily life, what activities are most important to him/her?” ([ペットの名前]の日常生活で、彼/彼女にとって最も重要な活動は何ですか?)

経済的負担については、直接的に尋ねるのではなく、選択肢の提示の仕方で配慮を示します。「この治療は効果的ですが、費用がかかります。もう少し費用を抑えた別の管理方法もご提案できます」(“While this treatment is effective, it is costly. I can also suggest an alternative management plan that is more budget-friendly.”) という表現で、飼い主が費用について話しやすくする配慮ができます。

飼い主が「どちらが正解かわからない」と悩んでいるとき、どうアドバイスすればいいですか?

正解を提示するのではなく、判断の基準を一緒に考える姿勢が重要です。“There is no single ‘right’ answer that fits everyone. It’s about choosing the path that aligns best with your situation and what you believe is best for your pet.” (すべての人に当てはまる唯一の「正解」はありません。ご自身の状況と、ペットにとって最善だと信じることにもっとも沿った道を選ぶことです) と言い、飼い主自身の価値観を決定の中心に据えましょう。

家族間で治療方針の意見が分かれた場合、どう調整すればいいですか?

まずは、それぞれの意見を尊重しながら情報を整理する役割を果たします。“I understand there are different opinions in the family. Let’s go over the options and the key points again together.” (ご家族内で意見が分かれているのは理解できます。もう一度一緒に選択肢と重要なポイントを見直しましょう) と促し、客観的な情報を共通の土台とします。最終的には「ご家族で話し合う時間をとっていただけますか?」(“Would you like some time to discuss this as a family?”) と提案し、無理に結論を急がせない配慮も必要です。

最終的に、飼い主が下した決断がどのようなものであれ、それを尊重し、その後のサポートを約束することが、信頼関係を最後まで維持する鍵となります。“We will fully support you and [Pet’s Name] whichever path you choose.” (どの道を選ばれても、私たちはあなたと[ペットの名前]を全力でサポートします) という一言が、飼い主にとって大きな安心材料となるのです。

獣医師、動物看護師、受付が連携するための英語表現

スムーズな診療の流れは、飼い主との対話だけではなく、獣医師(DVM)、動物看護師(RVT/VN)、受付スタッフ(Receptionist)の間での正確で迅速な情報共有にかかっています。特に外国語対応が必要な場面では、略語や決まったフレーズを知っているかどうかが、チームワークと患者の安全を大きく左右します。ここでは、多職種間の連携に欠かせない英語表現を、具体的なシーン別に紹介します。

カルテの受け渡しと情報共有で使える定型句

臨床では、患者情報をSOAPノート(主観的情報、客観的情報、評価、計画)の形式で記録し、共有します。情報の受け渡しを明確に行うことが、誤解や手違いを防ぐ第一歩です。

  • 獣医師から動物看護師への指示・依頼
    “Could you prepare the patient for a blood draw? The owner has consented.”(採血の準備をお願いできますか。飼い主の同意は得ています。)
    “Please update the SOAP note in the chart with today’s vital signs.”(今日のバイタルサインをカルテのSOAPノートに記録してください。)
    “The patient in exam room 2 is scheduled for an ultrasound. I need you to assist.”(検査室2の患者は超音波検査の予定です。アシストをお願いします。)
  • 動物看護師から獣医師への報告・問い合わせ
    “Doctor, the CBC results for Max are back. The WBC count is elevated.”(先生、マックスのCBC結果が出ました。白血球数が上昇しています。)
    “I’ve completed the pre-op checklist for the spay surgery. The patient is NPO since last night.”(避妊手術の術前チェックリストを完了しました。患者は昨夜から絶食です。)
    “The owner of the patient in kennel 3 is asking about the discharge time. What should I tell them?”(ケージ3の患者の飼い主が退院時間について尋ねています。何とお伝えしましょうか。)
略語と確認の重要性

「NPO(Nothing Per Os=経口摂取禁止)」「CBC(Complete Blood Count=血液一般検査)」などの略語は日常的に使われます。重要なのは、指示や報告を受けた側が必ず確認(Read-back)することです。例えば、「Understood. I will prepare the patient for a blood draw.(了解しました。採血の準備をします)」や「Let me confirm: elevated WBC count, correct?(確認させてください。白血球数上昇、ですね?)」と返す習慣をつけましょう。

処方箋と投薬指示を正確に伝える英語

投薬ミスは重大な事故につながります。獣医師が処方箋を書く際、そして動物看護師が飼い主に説明する際に使う表現は、特に正確さが求められます。

  1. 処方箋の記載と指示
    獣医師は処方箋に“Enrofloxacin 50mg tablets. Sig: 1 tab PO q24h for 14 days.”と記載します。「Sig」は「指示」を意味し、「1錠を経口投与、24時間毎、14日間」という意味です。
  2. 動物看護師による飼い主説明
    この処方箋に基づき、動物看護師は飼い主に“This is an antibiotic. Give one tablet by mouth once daily for two weeks. Please finish the entire course even if the symptoms improve.”(これは抗生物質です。1日1回、1錠を2週間、口から投与してください。症状が良くなっても全量を飲み切ってください)と説明します。
  3. 投薬ルートの略語
    PO(経口)、SQ/SC(皮下)、IM(筋肉内)、IV(静脈内)は頻出する略語です。指示を出す際は“Administer 0.5ml SQ.”(0.5mlを皮下投与して)のように使います。

「q12h(12時間毎)」と「BID(1日2回)」は厳密には異なりますが、臨床ではほぼ同義で使われることがあります。飼い主への説明では「twice daily, about every 12 hours(1日2回、およそ12時間おきに)」と具体的な間隔を伝えると誤解が少なくなります。

緊急時や電話での簡潔な情報伝達のコツ

緊急時や電話では、情報が錯綜しがちです。状況を簡潔に伝えるための「SBAR(Situation, Background, Assessment, Recommendation)」のフレームワークが有効です。

電話での緊急対応例

動物看護師(電話で獣医師に):
“Doctor, this is [Name] at the clinic. Situation: We have a walk-in, a 5-year-old dog presenting with acute vomiting and abdominal distension. Background: He ate a large amount of food this morning. Assessment: His mucous membranes are pale, and he appears painful on abdominal palpation. Recommendation: I think we need to take radiographs immediately and consider an emergency workup. What are your instructions?”
(先生、クリニックの[名前]です。状況: 緊急来院で、5歳の犬が急性の嘔吐と腹部膨満を呈しています。背景: 今朝、多量の食事を摂取しました。評価: 粘膜は蒼白で、腹部触診に疼痛反応があります。提案: 直ちにレントゲン撮影を行い、緊急検査を考慮すべきだと思います。ご指示をください。)

このように、状況、背景、評価、提案の順に伝えることで、聞き手は瞬時に全体像を把握できます。受付スタッフが緊急電話を受けた際も同様で、“I have an emergency call on line 1. The caller says her dog is having a seizure.”(1番線に緊急電話です。呼び手は犬がけいれんを起こしていると言っています)と、核心から伝える訓練が大切です。

チーム間のコミュニケーションでは、専門用語の正確な理解と、お互いを尊重した確認の姿勢が何よりも重要です。これらの定型表現を基盤に、現場で即戦力となる英語での連携力を養いましょう。

退院指導と在宅ケアの説明を英語で徹底する

治療や手術が終わった後も、患者の回復と長期予後を左右する最も重要なコミュニケーションが、退院指導と在宅ケアの説明です。飼い主が自宅で適切なケアを行えるよう、指示は具体的で実行可能なものにし、理解度を確認する方法を工夫する必要があります。書面での説明に加え、口頭でポイントを補足し、飼い主が自信を持ってケアに取り組めるよう導きましょう。

投薬方法と副作用の観察ポイントを伝える

投薬指導は、単に「1日2回」と伝えるだけでは不十分です。時間帯、食事との関係、投与方法を具体的に説明します。

  • “Give this medication twice a day, approximately 12 hours apart, with a small meal to avoid stomach upset.”(この薬は1日2回、12時間おきに少量の食事と一緒に与えてください。胃の不調を防ぐためです。)
  • “If it’s a liquid, shake the bottle well, and use the syringe to measure the exact amount.”(液体の場合は、瓶をよく振り、シリンジで正確な量を計量してください。)

副作用の観察ポイントは、飼い主が不安を感じる前に共有します。「理解しましたか?」と聞くのではなく、「どのように投薬しますか?」「どんな変化に注意しますか?」と質問形式で確認すると、実践的な理解度が測れます。

注意点

絶対的な断言は避けます。「絶対に副作用は出ません」ではなく、「一般的には安全ですが、vomiting(嘔吐)やlethargy(元気消失)が見られたら連絡してください」と伝えます。

食事管理と運動制限の指示を具体的にする

「特別な食事をあげてください」では、飼い主は何を選べばよいかわかりません。具体的なブランド名は避けつつ、必要な栄養素や形状を説明します。

“For the next two weeks, please feed a high-protein, easily digestible diet. You can find canned food labeled ‘for recovery’ or ‘sensitive stomach’.”(今後2週間は、高タンパクで消化の良い食事を与えてください。『回復期用』や『胃腸に優しい』と表示された缶詰が候補になります。)

運動制限も同様です。「安静に」ではなく、具体的な行動を示します。

  • “Strict crate rest is essential. Only short, leashed walks for bathroom breaks.”(ケージ内での安静が必須です。排泄のための短いリード散歩のみ許可します。)
  • “Avoid stairs, jumping on furniture, and running.”(階段、家具への飛び乗り、走ることは避けてください。)

経過観察の重要性と再来院のサインを説明する

飼い主に、経過観察が治療の一部であることを理解してもらいます。再来院のサインは、緊急性の高いものと、経過観察でよいものに分けて伝えると効果的です。

STEP
退院説明のチェックリスト
  1. 投薬の詳細(量、回数、期間、方法)を書面と口頭で確認。
  2. 食事と運動の具体的な指示を、飼い主自身の言葉で説明してもらう。
  3. 縫合部や創部のケア方法を実演する。
  4. 緊急連絡すべきサインと、定期経過観察の予定を共有する。

再来院または緊急連絡が必要なサイン

  • Call us immediately if you see: Difficulty breathing, uncontrolled bleeding, loss of consciousness, or seizures.(すぐに連絡が必要:呼吸困難、止まらない出血、意識消失、発作)
  • Schedule a recheck if you notice: Decreased appetite for more than 24 hours, increased swelling or redness at the incision site, or persistent vomiting/diarrhea.(再診を予約するべき兆候:24時間以上食欲不振、縫合部の腫れ・発赤の増加、継続的な嘔吐・下痢)

退院サマリーは重要な記録ですが、難しい用語が並ぶこともあります。口頭説明では、「この部分が最も大切です」と指摘しながら、平易な言葉で繰り返します。飼い主が安心して自宅ケアを始められるよう、最後まで丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。

著者プロフィール

大学受験・英語資格試験塾講師。大学時代にアメリカへ1年間留学。卒業後は海外書籍を取り扱う出版社で編集職に6年間従事した後、英語教育の現場へ転身。大学受験生向けや、社会人の英語資格試験対策の講義を担当し、実践的で分かりやすい解説に定評がある。出版社時代に様々なジャンルの英語書籍を担当した経験から、法律から工学まで業界特有の英語表現やビジネス英語に関する幅広い知識を持つ。また、二児の母という立場から、実体験に基づいた子どもの英語教育に関する発信も行っている。

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