TOEICのPart 1は、6枚の写真を見て、最も適切に描写している音声を選ぶ問題です。一見シンプルで最も易しいパートと思われがちですが、実は多くの受験者が「知っているはずの単語なのに聞き取れない」「写真と音声が合っているのか微妙に迷う」という経験をします。このセクションでは、その原因と根本的な対策の核心に迫ります。
TOEIC Part 1の難化ポイントは『知っている単語の知らない言い方』にある
Part 1でスコアを伸ばせない最大の理由は、写真に写っている物や人の動作を、あなたが知っている「基本表現」ではなく、試験が求める「アレンジ表現(イディオム・句動詞)」で描写している点にあります。例えば、写真に「男性が新聞を読んでいる」とします。あなたが思い浮かべる英語はおそらく “A man is reading a newspaper.” でしょう。しかし、試験では “A man is looking over a newspaper.” や “A man has his eyes fixed on a newspaper.” といった表現が使われる可能性があります。これが「知っている単語の知らない言い方」の正体です。
なぜPart 1でイディオム・句動詞が使われるのか? 試験作成者の意図を解く
Part 1の目的は、実践的なビジネス・日常シーンで、視覚情報と音声情報を結びつけて理解する力を測ることです。現実の会話では、物事を常に最も単純な語彙で表現するとは限りません。多様な言い回し(イディオム)を用いて表現する能力が求められます。試験はこの現実を反映し、明白な事実をあえて別の表現で描写することで、受験者の語彙力と聴解力をより精密に評価しています。
上記の引用が示すように、試験作成者は単に「写真を見て答える」以上の力を測定しようとしています。つまり、「読む」を “read” だけではなく “look over” や “scan” でも理解できるか、「置かれている」を “placed” ではなく “set on” や “resting on” で認識できるかを問うているのです。これにより、初級者と中級以上の学習者を明確に区別しています。
Part 1対策で重要なのは、これらのイディオムを「自分で使いこなせるようになること」ではありません。必要なのは、音声として流れてきた時に、それが写真の状況を正しく描写しているか、あるいは間違っているかを瞬時に判断できる「聴き分ける力」です。この点を明確に意識することで、学習の焦点が絞られます。
『基本表現』と『アレンジ表現(イディオム)』の比較が攻略の第一歩
では、具体的にどのような「言い換え」が起こるのでしょうか。以下の比較表で、その典型的なパターンを確認しましょう。このギャップを認識することが、対策のスタートラインです。
| 写真の状況(基本表現) | Part 1で使われるアレンジ表現例 |
|---|---|
| 荷物が床に置いてある。 (Luggage is on the floor.) | Luggage is resting on the floor. Some bags have been left on the floor. |
| 女性がメモを書いている。 (A woman is writing a note.) | A woman is jotting down a note. A woman is taking notes. |
| 男の子が自転車に乗っている。 (A boy is riding a bicycle.) | A boy is pedaling a bicycle. A boy is on a bicycle. |
| 車が駐車されている。 (Cars are parked.) | Cars are lined up in a parking lot. Vehicles have been left in a parking space. |
この表からわかるように、動詞や前置詞を少し変えるだけで、同じ状況を別の角度から描写できます。攻略の第一歩は、この「基本表現 vs アレンジ表現」の対応関係を、頻出の物体・建物・動きごとに蓄積していくことです。
- まずは、自分が写真を見て最初に思い浮かべる「基本表現」を明確に言語化する。
- 次に、その基本表現に対して、試験で使われそうな「アレンジ表現」を2〜3個、関連づけて覚える。
- 学習時は、音声と写真を結びつける練習に集中し、アレンジ表現を「聞き取れる語彙」として増やしていく。
カテゴリー1:『物体の状態・位置関係』を描写するイディオム10選
多くの受験者が迷うPart 1は、物体がどのような「状態」で、どこに「位置」しているのかを、基本動詞ではなく、より具体的なイディオムで描写することで難易度が上がります。ここでは、物体の「状態」と「位置」に着目して、頻出のイディオムをグループ化して学習しましょう。
写真を見る時、物体の『状態』(整然/乱雑)と『位置』(中心/周縁)に注目するクセをつけましょう。この2つの軸でイディオムを整理すると、記憶に定着しやすくなります。
基本表現『〜の上にある (on)』のアレンジ:『積まれている』『置かれている』のニュアンス
単に「on the table」と言うよりも、「どのように置かれているか」が描写されます。特に書類や皿、箱などが重なっているシーンは頻出です。
- be stacked on top of each other (積み重ねられている)
例: Papers are stacked on top of each other. (書類が何枚も積み重ねられている) - be piled up (山積みにされている)
例: Boxes are piled up in the corner. (箱が隅に山積みにされている) - be arranged neatly (きれいに並べられている)
例: Chairs are arranged neatly around the table. (椅子がテーブルの周りにきれいに並べられている) - be scattered across (〜全体に散らばっている)
例: Tools are scattered across the floor. (工具が床一面に散らばっている)
基本表現『〜に囲まれている (surrounded by)』のアレンジ:『取り囲まれる』『挟まれる』の表現
物体が人や他の物に囲まれている、または特定の空間に収まっている様子を表現する際にも、多彩なイディオムが使われます。
- be crammed into (〜に詰め込まれている)
例: Books are crammed into the small shelf. (本が小さな棚に詰め込まれている) - be wedged between (〜と〜の間に挟まれている)
例: A notebook is wedged between two thick books. (ノートが2冊の分厚い本の間に挟まれている) - be lining the edge of (〜の縁に沿って並んでいる)
例: Flower pots are lining the edge of the balcony. (植木鉢がバルコニーの縁に沿って並んでいる) - be tucked away in the corner (隅にしまわれている/置かれている)
例: A vacuum cleaner is tucked away in the corner of the room. (掃除機が部屋の隅にしまわれている)
不正解を生む『部分描写』に注意:『一部が見える』『端にある』の言い回し
ここが最も落とし穴になりやすいポイントです。写真に物体が一部分しか写っていない場合、全体を描写する選択肢は不正解になります。部分描写を正確に聞き取る必要があります。
- be protruding from (〜から突き出ている)
例: A pen is protruding from the bag. (ペンがカバンから突き出ている) - be visible in the foreground (前景に見える)
例: A laptop is visible in the foreground. (ノートパソコンが前景に見える) - be placed at the edge of (〜の端に置かれている)
例: A cup is placed at the edge of the desk. (カップが机の端に置かれている) - be partially hidden behind (〜の後ろに部分的に隠れている)
例: The monitor is partially hidden behind some files. (モニターが書類の後ろに部分的に隠れている)
「be visible(見える)」と「can be seen(見ることができる)」は同じ意味で使われます。どちらも「写真に写っている」という事実を表す表現です。
カテゴリー2:『建物・屋内の構造・情景』を描写するイディオム10選
Part 1では、街角の風景や店舗・オフィス内の様子を描写する問題も頻出します。「ビルが建っている」「人がいる」という基本表現では捉えきれない、より精緻な描写が求められます。ここでは、建物の「外部との位置関係」と、室内の「人の分布や場所の機能」に分けて、押さえておくべきイディオムを整理します。
基本表現『建っている (built)』のアレンジ:『面している』『隣接している』の表現
建物の場所を説明する際、「A building is built on the street.」では不十分です。周囲の環境との関係性を示す表現が使われます。
- face onto the street (通りに面している)
「The storefront faces onto a busy street.」(店の正面はにぎやかな通りに面している) - be adjacent to the park (公園に隣接している)
「The café is adjacent to a small park.」(そのカフェは小さな公園に隣接している) - be located at the corner of ~ (~の角にある)
「The building is located at the corner of Main Street and First Avenue.」(その建物はメインストリートとファーストアベニューの角にある)
「face onto」は正面を向いている関係、「adjacent to」は横に並んでいる関係です。「at the corner of」は交差点の角を指します。これらを図でイメージしておくと、音声を聞いた時に写真との一致・不一致が瞬時に判断できます。
基本表現『人がいる (there are people)』のアレンジ:『占められている』『散らばっている』の表現
室内の人の様子は、「人がいる」以上に、どのようにスペースを「占めているか」「分布しているか」が描写のポイントです。
- be seated at every table (すべてのテーブルに人が座っている)
「All the tables are seated.」や「People are sitting at all the tables.」よりも、席が埋まっている状態をダイレクトに表します。 - be clustered around the entrance (入口の周りに群がっている)
人が一点に集まっている様子。crowded aroundも同様の意味で使われます。 - be scattered throughout the room (部屋中に散らばっている)
人がまばらに、あちこちにいる状態。会議室や広いホールで使われる表現です。 - occupy most of the seats (座席のほとんどを占めている)
「人が多い」という事実を、「スペースを占拠している」という視点で描写します。
室内の『機能』や『雰囲気』を伝える句動詞
ドアや窓が「どこに通じているか」、スペースが「何に使われているか」を表す表現も頻出です。
- give onto a courtyard (中庭に通じている)
「The French doors give onto a sunny courtyard.」(フレンチドアは日当たりの良い中庭に通じている)open ontoも同じ意味です。 - be set up for a meeting (会議用にセッティングされている)
机や椅子が会議形式に配置されている状態。be arranged for a conferenceも同義です。 - be lined with shelves (棚が並んでいる)
「The walls are lined with bookshelves.」(壁一面に本棚が並んでいる)「〜で縁取られている」というイメージです。 - be filled with natural light (自然光で満たされている)
室内の明るさや雰囲気を描写します。be bathed in light(光に包まれている)も覚えておきましょう。
「give onto」は「与える」という意味のgiveからは連想しにくいため、聞き逃しがちな表現です。また、「be set up for」は「設置する」という意味だけではなく、「(特定の目的のために)準備・配置されている」という意味で使われることを理解しておきましょう。
写真を見たら、「建物の外観:どこに面している?何に隣接?」「室内:人はどう分布?スペースは何に使われている?」という2つの視点で状況を分析する癖をつけましょう。
以下の練習問題で、学んだイディオムが実際にどのように使われるか確認してみましょう。
カテゴリー3:『人の動作・行為』を描写するイディオム・句動詞10選
Part 1の写真描写では、人物の動作が描写の中心となることが多く、「何をしているか」を正確に聞き取ることがスコアアップの鍵です。ここでは、基本動詞だけでは捉えきれない「動作の様子」や「行為の目的」を表すイディオムと句動詞に焦点を当て、その使い分けをマスターしましょう。
基本表現『持っている (hold/have)』のアレンジ:『抱えている』『手にしている』の表現
「持っている」を表す単純なholdやhaveは頻出ですが、TOEICではより具体的な様態を描写するイディオムが好まれます。例えば、be clutching a bagは「カバンをしっかり握りしめている」状態で、力を込めて持っている様子を表します。一方、be holding a cupは単に「カップを持っている」という意味です。また、be carrying a large box(大きな箱を運んでいる)のように、移動しながら持っている状態も頻出します。
基本表現『見ている (look at)』のアレンジ:『眺める』『ちらりと見る』の表現
「見る」という動作は、その集中度合いや時間の長さによって様々な動詞を使い分けます。
| 動詞 | 意味 | 特徴 |
|---|---|---|
| look at | ~を見る | 一般的な「見る」行為。方向性を示す。 |
| gaze at / gaze out | じっと見つめる、眺める | 長い間、一点を見つめる。集中またはぼんやりとした印象。 例: be gazing out the window(窓の外を眺めている) |
| glance at | ちらりと見る、一目見る | 短い時間だけ視線を向ける。 |
| peer at | じっと見る、覗き込む | よく見ようとして、目を凝らして近づいて見る様子。 |
基本表現『話している (talk)』のアレンジ:『相談する』『打ち合わせる』の表現
ビジネスシーンが多く登場するTOEICでは、talkよりもconverseやdiscussといったフォーマルな表現が使われます。be conversing with a colleague(同僚と会話している)は、talkよりも少し改まった印象です。be discussing a document(書類について議論している)やbe having a meeting(会議をしている)も、写真内の人々が何をしているのかを具体的に描写するための重要な表現です。
『移動』を表す句動詞の微妙な違い:『歩き回る』『近づく』『離れる』
人物の移動を表すwalkも、様々な句動詞でアレンジされます。be strolling through the park(公園を散歩している)は、ゆっくりとリラックスして歩く様子です。一方、be walking around the store(店内を歩き回っている)は、目的なくあちこち移動している印象を与えます。また、be approaching the entrance(入口に近づいている)やbe heading toward the exit(出口の方に向かっている)のように、移動の「方向性」に注目した表現も出題されます。
人の動作を描写する表現を覚える際は、以下の2点に注目すると理解が深まります。
- 様態: その動作がどのように行われているか。
例: 熱心に (clutching)、ぼんやりと (gazing)、ゆっくり (strolling)、短時間 (glancing)。 - 方向性: 動作の向かう方向や、他との位置関係。
例: 近づく (approaching)、離れる (walking away from)、~の方へ向かう (heading toward)、~にもたれる (leaning against)。
写真の中で、人物が行っている中心的な動作は何か(例: 歩く、見る、持つ、話す)を素早く判断します。
その動作が、どのような「様子」で行われているかに注目します。早いのか遅いのか、力強いのか穏やかなのか、写真の細部から推測します。
選択肢を聞き、基本動詞(walk)よりも、適切な様態(stroll)や方向性(approach)を含むイディオムが正解である可能性が高いことを念頭に置きます。
be leaning against the wall(壁にもたれかかっている)のように、移動ではなく「静止した姿勢」を表す表現も出題されます。動作だけでなく、ポーズや状態を描写する表現にも慣れておきましょう。
実践演習:イディオム知識を『正解選択』に結びつける3ステップ思考法
これまで学習したイディオムやアレンジ表現を、実際の試験問題で活用するための思考法を3つのステップに分けて解説します。「聞こえた単語が写真にあるから選ぶ」という最も危険なミスのパターンを避け、描写内容の正確さを判断基準にする訓練が、Part 1の正答率を飛躍的に高めます。
写真を見て、主要な人物・物体・背景について、最も基本的な英語表現を複数想定します。例えば、写真に「男性がカバンを持って歩いている」様子があれば、「A man is walking.」「He is holding a bag.」「He is on the street.」などです。この準備が、聞こえてくる音声を素早く理解する下地になります。
音声を聞きながら、ステップ1で想定した基本表現が、学習したイディオムや句動詞に「言い換え」られていないか探します。「walking」が「making his way through」に、「holding」が「carrying」に置き換えられていないか、瞬時に脳内で変換します。
イディオムを含む選択肢が聞こえても、即座に正解と決めつけません。その表現が写真の状況を過不足なく、かつ誤りなく描写しているかを最終チェックします。描写が一部だけ当てはまる(部分的描写)や、写真にはない要素を含む(過剰描写)選択肢は不正解です。
それでは、この思考法を使って演習問題に挑戦してみましょう。写真を見てステップ1の準備をした後、音声の選択肢を聞き、ステップ2、3のプロセスで正解を選んでください。
写真の描写: カフェのカウンター席で、一人の女性がノートパソコンを開き、真剣な表情で画面を見つめている。
- (A) She is waiting for her drink at the counter.
- (B) She has set up her laptop on the counter.
- (C) She is talking to a friend across the table.
- (D) The café is filled to capacity.
解答と解説:
- 正解は (B) です。
プロセス分析:
- ステップ1 (基本表現): 「女性がノートパソコンを置いている/開いている」「彼女は働いている/集中している」
- ステップ2 (アレンジ発見): 「set up her laptop」は「パソコンをセットアップする、準備する」というイディオムで、基本表現「has opened her laptop」のアレンジです。
- ステップ3 (核心描写の確認): 写真ではパソコンがカウンターに「置かれ、準備されている」状態であり、「set up」はその核心を正確に捉えています。
不正解選択肢の分析:
- (A) 描写の過不足: 「飲み物を待っている」描写は写真にありません(過剰描写)。
- (C) 描写の誤り: 写真には友達もテーブルも見えず、会話もしていません(誤った描写)。
- (D) 描写の誤り・部分描写: 「満席である」は写真の一部分からは判断できず、イディオム「filled to capacity」自体は正しいが、写真の核心描写から外れています。
選択肢(D)には「café」という写真にある単語が含まれています。これに引っかかり、「単語が一致したから」と選んでしまうのが典型的なミスです。Part 1では、写真に登場する単語を含む選択肢が必ずしも正解ではないことを肝に銘じてください。描写内容の「正確さ」が全てです。
写真の描写: 公園のベンチの上に、折りたたまれた新聞が一つ置かれている。その隣にはコーヒーカップが置かれ、人影はない。
- (A) A newspaper is lying on the bench.
- (B) Someone has left behind a newspaper and a cup.
- (C) A man is reading the newspaper intently.
- (D) The park is being renovated.
- 正解は (B) です。
プロセス分析:
- ステップ1 (基本表現): 「新聞とカップがベンチの上にある」「誰もいない」
- ステップ2 (アレンジ発見): 「left behind」(置き忘れられた、後に残された)は、「are on the bench」という状態を、「誰かが去った結果としてそこにある」という行為の結果に言い換えたイディオムです。
- ステップ3 (核心描写の確認): 人影がなく物だけが置かれている状況は、「置き忘れられた」という描写が核心を突いています。また、新聞「と」カップの両方を言及している点も正確です。
不正解選択肢の分析:
- (A) 部分描写: 「新聞がベンチの上にある」のは正しいが、カップの存在を描写しておらず、状況の核心(置き忘れられた感じ)を伝えていません。
- (C) 描写の誤り: 人物はおらず、読んでいる描写もありません(誤った描写)。
- (D) 描写の誤り: 工事の様子は写真に一切写っておらず、関連がありません。

