「単語も文法もわかるのに、なぜか文章の意味がつかめない…」そんな経験はありませんか?実は、英語長文の読解でつまずく原因の多くは、語彙や文法の知識不足ではなく、代名詞や指示語の「指し示す先(参照先)」を正確に追えていないことにあります。this、it、they、such、one…これらの語が何を指しているかを誤って解釈した瞬間、文章全体の意味が根本から崩れてしまいます。このセクションでは、その「参照ズレ」がなぜ起きるのか、そしてどんな場面で失点につながるのかを具体的に見ていきましょう。
なぜ「指示語の誤解釈」が読解ミスの根本原因になるのか
文法・語彙力があっても陥る「参照ズレ」の罠
英語の長文では、同じ名詞を繰り返すのを避けるために代名詞や指示語が多用されます。これは自然な英語の流れですが、読者にとっては「どれを指しているのか」を常に意識しながら読む必要があるということでもあります。たとえば次の文を見てください。
The manager told the employee that he needed to revise the report.
この文の “he” は、マネージャーを指すのか、従業員を指すのか。文法的にはどちらも成立するため、文脈なしには確定できません。こうした曖昧さを「なんとなく」で処理してしまうと、段落全体の解釈がずれていきます。語彙力があっても、参照先の特定を怠ると意味が崩壊するのが英語長文の怖いところです。
The new policy was criticized by the staff. They said it was too strict and needed to be changed. However, this was rejected by the board.
「this」が指すのは「変更の要求(提案)」なのか、それとも「批判そのもの」なのか。ここを誤ると、「方針が却下された」と読んでしまい、文章の論旨を完全に取り違えます。
試験設問に潜む指示語ミスの典型パターン3選
TOEIC・英検・大学受験の長文問題では、指示語の誤解釈を誘発するように設計された設問が頻出します。代表的な3つのパターンを押さえておきましょう。
- パターン1:前の段落を跨ぐ参照 段落をまたいで登場する “this idea” や “such efforts” が、前の段落のどの内容を指すかを問う設問。「直前の文」だけを見て誤答するケースが多い。
- パターン2:複数の候補が並ぶ参照 ”Both companies expanded, but they struggled with costs.” のように、”they” の参照先として複数の名詞が候補に挙がる状況。選択肢が紛らわしく設計されている。
- パターン3:抽象名詞への参照 ”This is why the reform failed.” のような文で、”This” が具体的な事物ではなく前段の「論理的な理由全体」を指すケース。単語レベルで追おうとすると必ず迷子になる。
「何となく読める」状態と「正確に読める」状態の差は、まさにこの指示語の処理精度にあります。次のセクションからは、参照先を素早く・正確に特定するための具体的なトレーニング方法を解説していきます。
| ケース | 指示語を正しく追った場合 | 指示語を誤って追った場合 |
|---|---|---|
| パターン1(段落跨ぎ) | 前段落の「提案内容」を指すと正しく理解し、筆者の主張を把握できる | 直前文の「批判」を指すと誤解し、論旨が逆転する |
| パターン2(複数候補) | 文脈から「両社」を指すと特定し、設問に正答できる | 直近の一方の会社のみを指すと誤解し、誤答を選ぶ |
| パターン3(抽象参照) | 前段落の論理的理由全体を指すと把握し、因果関係を正確に理解できる | 直前の単一名詞を当てはめ、文意が不自然になる |
「参照追跡(Reference Tracking)」とは何か——コーファレンスの基礎知識
「参照追跡(Reference Tracking)」とは、文章中に登場する代名詞や指示語が「何を・誰を指しているか」を正確に追いかけながら読む技術のことです。英語では、同じ名詞を繰り返す代わりに it や they、this、that といった語で置き換えるのが一般的。この置き換えの連鎖を「コーファレンス(照応関係)」と呼び、コーファレンスを正しく理解することが、長文読解の精度を左右する最重要スキルのひとつです。
代名詞・指示語の種類と照応関係(コーファレンス)の仕組み
英語長文に頻出する代名詞・指示語は、大きく以下の4グループに分類できます。それぞれが「何を置き換えているか」を意識するだけで、読み違いが激減します。
| グループ | 主な語 | 指す対象の特徴 |
|---|---|---|
| 人称代名詞 | he / she / they / we / it | 人・物・概念など |
| 指示代名詞 | this / that / these / those | 近い・遠い対象や概念 |
| 代替表現 | such / one / ones / so | 同種の物・内容全体 |
| 対比表現 | the former / the latter / the one … the other | 直前の2つの要素を対比 |
前方照応・後方照応・文脈照応の違いをマスターする
照応関係には3つのタイプがあります。どのタイプかを見極めることが、参照先を素早く特定するカギです。
1. 前方照応(Anaphora):代名詞・指示語の参照先が前の文にある、最も一般的なタイプ。
例: Scientists discovered a new protein. It could help treat cancer. (It = a new protein)
2. 後方照応(Cataphora):参照先が後の文に登場するタイプ。英語では比較的まれだが、強調構文や導入文でよく使われる。
例: This is what we know: the data was falsified. (This = the data was falsified)
3. 文脈照応(Discourse Reference):特定の単語ではなく、直前の文や段落全体の「状況・内容・概念」を丸ごと指すタイプ。this / that / such がよく使われる。
例: Many employees reported burnout. This led management to revise its policies. (This = 従業員が燃え尽き症候群を報告したという状況全体)
各タイプの見分け方には、次のコツが役立ちます。
- 前方照応:代名詞が出てきたら、まず直前の名詞句を候補として確認する。数・性が一致するかチェック。
- 後方照応:代名詞が文頭・節頭に来て、直後にコロン(:)やthat節が続く場合は後方照応を疑う。
- 文脈照応:this / that / such の後に名詞が続かず単独で使われていたら、前の文・段落全体を指す文脈照応と判断する。
特に文脈照応は「どこかの単語」ではなく「概念のかたまり」を指すため、初学者が最も見落としやすいタイプです。this が出てきたとき、単語ではなく前の文全体に「=」を当てはめてみる習慣をつけましょう。
指示語の先行詞を特定する「5ステップ解法」
指示語の解釈を感覚に頼っていると、長文の難易度が上がるにつれてミスが増えていきます。ここでは、どんな英文にも再現性をもって適用できる「5ステップ解法」を紹介します。一度身につければ、試験本番でも迷わず先行詞を特定できるようになります。
ステップ1〜3:指示語を発見し、候補を絞り込む
it / this / that / they / such / one など、指示語・代名詞が登場したら即座に下線を引きます。「何かを指している語がある」と意識するだけで、読み飛ばしを防げます。
指示語の直前にある名詞句や節を1〜3個ピックアップします。英語では先行詞が指示語の直前に来るケースが最も多いため、まず近い位置から候補を探しましょう。
- it → 単数の無生物名詞が対応
- they / them → 複数名詞が対応
- this / that → 単数名詞または節・状況全体が対応
ステップ4〜5:代入テストで正解を確定する
候補を絞ったら、文脈・論理の流れと矛盾しないかを確認します。特に「this/that+名詞」や「such+名詞」は、直前の名詞だけでなく、前文の内容や状況全体を指すことがあります。「この語が指しているのは具体的な名詞か、それとも節全体か」を意識することが判断の鍵です。
最終確認として、候補語句を指示語の位置に実際に代入し、文全体を読み直します。自然な意味になれば正解、不自然なら別の候補を試します。
例文: “Scientists discovered a new compound. It could revolutionize battery technology.”
STEP1: it に下線。STEP2: 直前の候補 → “a new compound” / “Scientists”。STEP3: it は単数・無生物 → “a new compound” が有力。STEP4: 文脈上、化合物が技術を変えるのは自然。STEP5: “A new compound could revolutionize battery technology.” → 意味が通る。正解は “a new compound”。
「this approach」「such a situation」のように指示語が名詞を伴う場合、直前の1文全体の内容を指すことが多い。代入時は「前文の状況=その名詞」と置き換えて確認しよう。
頻出パターン別・参照追跡トレーニング
ここでは実際の試験で頻繁に問われる3つの難易度が高い参照パターンを取り上げます。パターンを「型」として身につけることで、初見の英文でも迷わず先行詞を特定できるようになります。各パターンの判断フローを確認したうえで、練習問題に挑戦してみてください。
パターン①「it」の多義性——形式主語・形式目的語・強調構文との区別
「it」は英語で最も多義的な語のひとつです。単純な代名詞(前出の名詞を受ける)だけでなく、形式主語・形式目的語・強調構文として機能する場合があり、それぞれ処理の仕方がまったく異なります。
- 直後に to不定詞・that節・動名詞が続く → 形式主語(It is important to …)
- make / find / consider + it + 形容詞 + to不定詞 の形 → 形式目的語
- It is ~ that … の構造で、that節を前に戻しても文が成立する → 強調構文
- 上記に当てはまらず、前文に具体的な名詞・概念がある → 代名詞(先行詞を特定)
【練習問題①】次の英文の下線部 it が何を指すか、または何の構文かを答えなさい。
“Scientists discovered a new compound. They found it difficult to synthesize in large quantities.”
形式目的語。found it difficult to synthesize は「合成することを難しいと気づいた」という意味で、it は to synthesize in large quantities を指す形式目的語です。前文の “a new compound” を代名詞として受けているわけではない点に注意しましょう。
パターン②「they/them/their」——複数名詞が複数登場する文での追跡
文中に複数の複数名詞が登場すると、they が何を指すか判断に迷います。このとき有効なのが「段落の主題確認」と「動詞との意味的整合性チェック」の2軸です。
【練習問題②】次の英文の they が指すものを答えなさい。
“Governments introduced strict regulations on corporations. However, they argued that the new rules would harm economic growth.”
corporations(企業側)。「経済成長を損なう」と主張する主体として意味的に自然なのは規制を受けた側の corporations です。Governments が自ら導入した規制を批判するのは文脈上不自然なため、動詞 argued の意味から候補を絞り込めます。
パターン③「this/that/such」——節・概念・状況全体を指す抽象照応
this や such a situation のように、単一の名詞ではなく前の節全体や状況を丸ごと受ける照応を「抽象照応」と呼びます。抽象照応は「直前の文の内容をひとことで要約する」意識で読むと正確に解釈できます。
【練習問題③】次の英文の This が指す内容を日本語で答えなさい。
“More young people are choosing to live alone rather than with their families. This has led to a sharp rise in demand for single-occupancy housing.”
「多くの若者が家族と暮らすよりも一人暮らしを選ぶようになっていること」という前文全体の状況を指します。This は特定の名詞ではなく前文の命題全体を受けており、「その状況・その事実」と読み替えると文意がスムーズにつながります。
どのパターンでも「文法的な形」と「意味的な整合性」の両方を確認する習慣が不可欠です。文法だけで判断すると意味がずれ、意味だけで判断すると構造を読み誤ります。2軸で検証することを徹底しましょう。
試験別・参照追跡の実戦活用法
指示語の参照追跡スキルは、試験の種類によって「どこで・どう使うか」が異なります。試験ごとの出題パターンを把握したうえで練習することで、本番での得点力が格段に上がります。TOEIC・英検・大学受験の3つに分けて、それぞれの攻略ポイントを確認しましょう。
TOEIC長文:メール・記事・複数文書での指示語追跡ポイント
TOEICのPart 7では、メール・お知らせ・記事など複数の文書が組み合わさるマルチパッセージ問題が出題されます。このとき、「it」「they」「this」などの指示語が、別の文書で定義された語句を受けていることがあります。1つの文書内だけを読んでいると先行詞が見つからず、誤答に直結します。
- メール本文中の「the matter」「this issue」は、前のメールや添付文書を参照している場合がある
- 「they」が複数の会社・部署を指すケースでは、文書をまたいで候補を探す
- 「as mentioned above」は同一文書内の前段落を指すことが多い
英検2級〜準1級:要約・内容一致問題で指示語が問われる設問の攻略
英検の内容一致問題では、選択肢が指示語の誤解釈を誘う形で作られていることがよくあります。本文中の「this approach」「such a method」が何を指すかを取り違えると、正しい内容の選択肢を誤って除外してしまいます。選択肢を吟味する前に、必ず本文の指示語を解決してから照合する習慣をつけましょう。
- 指示語を未解決のまま選択肢と照合する → 誤答の罠にはまりやすい
- 指示語を先行詞に置き換えて本文を再読 → 選択肢との対応が明確になる
大学受験:下線部説明・内容把握問題での参照追跡の使い方
大学受験の下線部説明問題では、下線部に指示語が含まれている場合、その解決が和訳・説明の大前提になります。「it」「this」「such」を曖昧なまま訳すと、採点者に意図が伝わらず大幅減点になります。先行詞を特定してから日本語に置き換える手順を徹底してください。
試験別・頻出指示語パターン一覧
| 試験 | 頻出指示語 | 出題の特徴 |
|---|---|---|
| TOEIC | it / they / this / the issue | 複数文書をまたぐ参照が頻出 |
| 英検2級〜準1級 | this / such / it / they | 内容一致の選択肢の罠に直結 |
| 大学受験 | it / this / that / such / one | 下線部和訳・説明問題の前提条件 |
- 指示語を見つけたら、すぐに先行詞候補を前文・前段落から探す
- TOEICのマルチパッセージでは、他の文書も先行詞の候補に含める
- 英検の選択肢照合は、指示語を解決した状態で行う
- 大学受験の下線部訳では、指示語を先行詞に置き換えてから日本語にする
- 先行詞を代入して文意が通るか必ず確認する
参照追跡力を定着させる日常トレーニング法
参照追跡は「知っている」だけでは本番で使えません。意識しなくても自然に先行詞を特定できる「自動処理」の段階まで引き上げることが目標です。1日15分の継続的なトレーニングが、読解スピードと正確性を同時に高める最短ルートです。以下の2つの練習法を組み合わせて取り組んでみましょう。
「代名詞マーキング音読」で自動化を促す練習法
音読しながら代名詞・指示語に印をつけ、先行詞を声に出して確認する練習法です。目・手・口・耳を同時に使うことで、参照追跡の回路が脳に定着しやすくなります。
練習用の英文(100〜200語程度)を印刷またはノートに書き写す。代名詞(it, they, this, that, those など)をすべて丸で囲む。
英文を音読し、丸で囲んだ代名詞に差しかかったら一時停止。「it = the project」のように先行詞を声に出してから読み進める。
音読後、代名詞から先行詞へ矢印を書き込んで照応関係を視覚的に確認する。迷った箇所には「?」マークをつけて後で見直す。
前日の英文を何も印をつけずに音読し、代名詞の先行詞を頭の中で即座に特定できるか確認する。詰まった箇所だけ復習する。
週1回の「参照マップ作成」で精度を継続的に高める方法
週に1回、少し長めの英文(300〜400語)を使って「参照マップ」を作成します。段落ごとに代名詞と先行詞を矢印でつないだ図を書くことで、文章全体の照応関係を俯瞰できます。マップを作り終えたら、段落をまたぐ参照がどこにあるかを確認しましょう。
- 月・水・金:代名詞マーキング音読(各15分、100〜200語の英文)
- 火・木:前日の英文をノーマーキングで音読して定着確認(各10分)
- 土:参照マップ作成(300〜400語の英文、30分程度)
- 日:マップを見返して「段落またぎ参照」の箇所を重点復習(15分)
よくある疑問・つまずきポイントQ&A
- 指示語が多すぎて全部追えません。どうすればいいですか?
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最初から全部追おうとしなくて大丈夫です。まず「問われそうな代名詞」に絞って追跡する習慣をつけましょう。具体的には、段落の最初と最後の文に登場する代名詞を優先するだけでも、設問に直結する照応関係の大半をカバーできます。慣れてきたら対象を広げていくのがコツです。
- 先行詞が段落をまたぐ場合、どうやって見つければいいですか?
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段落をまたぐ場合は、直前の段落の最終文に注目してください。英語の段落は「前の段落の結論を次の段落の代名詞で受ける」構造になっていることが多いため、直前段落の末尾を確認するだけで先行詞が見つかるケースがほとんどです。参照マップを書く際に段落の境界線を引く習慣をつけると、この感覚が自然と身につきます。
- 音読が苦手で続きません。別の方法はありますか?
-
音読が難しい環境では、「書き込みサイレント音読」が有効です。英文を読みながら代名詞に印をつけ、先行詞を余白に書き込むだけでもトレーニング効果は十分あります。声に出すことにこだわらず、「代名詞を見たら必ず先行詞を確認する」という習慣づけを最優先にしましょう。
毎日15分のマーキング音読と週1回の参照マップ作成を3週間続けると、初見の英文でも代名詞の先行詞を自動的に特定できる感覚が生まれてきます。焦らず継続することが最大のコツです。

