英語論文を書き上げた達成感のあまり、Acknowledgementsをサラッと流してしまっていませんか?実は、謝辞セクションは査読者や編集者も必ず目を通す、論文の信頼性を左右する重要パートです。資金提供の記載漏れが採択取り消しにつながったケースも報告されており、「とりあえず書けばいい」という認識は危険です。このセクションでは、Acknowledgementsの基本的な役割と、なぜこれほど重要視されるのかを丁寧に解説します。
Acknowledgementsとは何か?論文における役割と重要性
謝辞セクションの定義と論文内での位置づけ
Acknowledgementsとは、研究の遂行にあたって貢献してくれた人々・機関・資金源への感謝を記す独立したセクションです。論文の構成としては、IMRaD(Introduction・Methods・Results・Discussion)の本体とは切り離された位置、一般的には本文末尾・参考文献の直前に配置されます。著者リストに名前が載らないものの研究を支えた存在を明示する場であり、研究の透明性と倫理性を担保する役割を果たします。
なぜ謝辞が採択率・信頼性に影響するのか
謝辞は単なる礼儀ではありません。多くのジャーナルでは、資金提供(グラント番号を含む)の開示が投稿の必須要件として明記されており、記載漏れや不正確な情報は採択却下・掲載後の撤回につながる可能性があります。また、査読者は謝辞を読むことで研究の独立性や利益相反の有無を確認します。研究コミュニティへの誠実な配慮が伝わる謝辞は、論文全体の印象をポジティブに底上げします。
- 資金提供・助成機関の開示(多くのジャーナルで必須)
- 著者以外の貢献者(データ収集・校正・統計支援など)への謝意
- 利益相反の有無を示す透明性の確保
- 研究コミュニティへの誠実な姿勢のアピール
ジャーナルによって異なる謝辞の扱い方
謝辞の書き方や構成はジャーナルごとに異なります。一部のジャーナルでは「Acknowledgements」と「Funding Statement」を別セクションとして分離して記載するよう求める場合があります。また、倫理承認番号やデータ可用性の宣言を謝辞内に含めるよう指示するジャーナルもあります。投稿前に必ず「Author Guidelines(投稿規程)」を確認することが不可欠です。
「Acknowledgements」はイギリス英語、「Acknowledgments」はアメリカ英語の綴りです。どちらも正しい表記ですが、投稿先ジャーナルの規程に合わせて統一することが重要です。テンプレートや過去掲載論文の表記を参考にして確認しましょう。
投稿規程(Author Guidelines)のAcknowledgementsに関する項目は、執筆前に必ず確認しておきましょう。後から大幅に書き直す手間を防げます。
誰を謝辞に含めるべきか?対象者の選定基準と優先順位
謝辞を書く際にまず直面するのが「誰を入れればいいのか」という問題です。感謝の気持ちがあれば誰でも入れていい、というわけではありません。学術誌の謝辞には「研究に実質的な貢献をした人」を記載するという明確な基準があります。この基準を理解することが、適切な謝辞作成の第一歩です。
謝辞に含めるべき5つのカテゴリー
- 資金提供機関:研究費・助成金を提供した機関やプログラム。グラント番号も記載するのが原則
- 技術的支援者:実験補助・データ収集・試料処理など、研究の実施を支えたスタッフや技術員
- 統計・言語校正の専門家:統計解析を担当した専門家や、英文校正(プルーフリーディング)を行った編集者
- 資料・試料提供者:データベース・細胞株・調査票など、研究に不可欠な素材を提供してくれた人や機関
- 議論・助言を提供した同僚:研究の方向性や解釈について有益なフィードバックをくれた研究者
著者資格(Authorship)との境界線:共著者にすべき人を謝辞に入れてはいけない
国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)などが定める著者資格の基準では、「知的貢献・草稿作成への関与・最終版の承認・説明責任への同意」の4要件をすべて満たす人物は著者として名を連ねるべきとされています。この基準を満たす人を謝辞だけで処理することは、研究倫理上の問題につながります。
| 判断項目 | 著者(Author) | 謝辞(Acknowledgements) |
|---|---|---|
| 研究の着想・設計への知的貢献 | あり | なし |
| 論文の草稿作成・重要な修正 | あり | なし |
| 最終版の承認と説明責任 | あり | 不要 |
| 技術的作業・補助のみ | なし | あり |
| 資金・物資の提供のみ | なし | あり |
謝辞に含めてはいけないケース・よくある誤り
謝辞掲載前に本人の許可を取るべき理由
謝辞に名前を掲載することは、その人が論文の内容や結論に同意しているとみなされる場合があります。特に議論・助言を提供した同僚については、掲載前に必ず確認を取ることがエチケットであり、多くのジャーナルが倫理的要件として求めています。
謝辞に名前を載せることで、その人物が研究内容を支持していると読者や査読者に受け取られる可能性があります。事前に口頭または書面で同意を得ておくことが、研究倫理の観点からも強く推奨されます。
謝辞の書き方:構成・順序・文体のルール
謝辞の「内容」が決まったら、次は「どう書くか」です。誰を入れるかと同じくらい、記載の順序・文体・分量がジャーナルの評価に直結します。ここでは、査読者に好印象を与える謝辞の構成ルールを体系的に整理します。
推奨される記載順序:資金提供→技術支援→助言・校正→その他
謝辞には「絶対的な決まり」はありませんが、多くのジャーナルで慣習として定着している順序があります。この順序に従うことで、読み手にとって整理された印象を与えられます。
研究費・助成金の提供元を最初に記載します。多くのジャーナルで記載が義務付けられており、省略は採択取り消しのリスクになります。
実験補助・データ収集・統計解析などを担当したスタッフや施設への感謝を記載します。
研究デザインや考察へのアドバイスをくれた研究者など、知的な貢献者への謝意を述べます。
英文校正サービスや校正者への謝辞を最後に添えます。「英文校正を受けた」という事実の開示は、論文の透明性を高めます。
謝辞の文体:一人称か三人称か、能動態か受動態か
文体に関してはジャーナルによって異なりますが、以下の3パターンが広く使われています。投稿先の規程を確認したうえで選択しましょう。
| 文体パターン | 例文 | 特徴 |
|---|---|---|
| 三人称・能動態 | The authors would like to thank… | フォーマルで最も一般的 |
| 一人称・能動態 | We thank… / We are grateful to… | 簡潔でよく使われる |
| 受動態 | This work was supported by… | 資金提供の記載に特に多用 |
ジャーナルが求める文字数・フォーマット制限への対応
謝辞全体の目安は100〜300語程度です。ただし、ジャーナルの投稿規程に上限が定められている場合は厳守してください。超過していると、査読前の段階で差し戻されることがあります。
投稿規程に「Acknowledgements: max 150 words」などの記載がある場合、超過は規程違反です。提出前に必ずワードカウントを確認しましょう。
複数の助成金・複数機関がある場合の整理方法
複数の資金源がある場合は、機関名と助成番号をセットで列挙します。読みやすさのために、セミコロンで区切るか、番号ごとに文を分けるのが一般的です。
- 機関名と助成番号(grant number)を必ずセットで記載する
- 複数ある場合はセミコロン(;)で区切って1文にまとめるか、機関ごとに文を分ける
- 助成番号の表記形式(例: Grant No. XXXXX)はジャーナルや助成機関の指定に従う
- 共同研究の場合は、各機関が支援した著者名も明記するとより明確になる
This work was supported by [機関A] (grant number XXXXX) and [機関B] (grant number YYYYY). The authors would like to thank [氏名] for technical assistance with data collection. We are grateful to [氏名] for valuable comments on an earlier draft. English language editing was provided by [校正サービス名].
資金助成の記載ルール:助成番号・機関名の正確な書き方
謝辞と並んで、近年ますます重要度が増しているのが資金助成に関する記載です。多くのジャーナルがFunding Statementを謝辞(Acknowledgements)とは独立した必須項目として要求するようになっており、混同したまま投稿するとリジェクトや修正依頼の原因になります。投稿前に必ずジャーナルの投稿規程を確認しましょう。
Funding Statementとは?多くのジャーナルで独立必須項目になった背景
Funding Statementとは、研究費の出所を明示するための専用セクションです。研究の透明性・再現性を担保するオープンサイエンスの流れを受け、主要な学術出版社が投稿規程にFunding Statementの独立記載を義務付けるようになりました。謝辞の一部として資金情報を書いていた従来のスタイルは、現在では多くのジャーナルで認められない場合があります。
助成金番号(Grant Number)の記載フォーマット
助成金番号の記載は「機関名(略称)→ プログラム名 → 番号」の順が国際的な標準です。以下のテンプレートを参考にしてください。
This work was supported by [機関名・略称] (grant number XXXXXXX) and [別機関名] (grant numbers YYYYYYY and ZZZZZZZ).
The funders had no role in study design, data collection and analysis, decision to publish, or preparation of the manuscript.
資金提供者が研究デザイン・データ収集・解析・解釈・執筆に関与した場合は、その旨も具体的に記載することが求められるジャーナルがあります。関与がない場合は上記の2文目のような定型文を添えると、審査担当者への印象が良くなります。
資金提供を受けていない場合の記載方法
- 外部資金を一切受けていない場合、Funding Statementはどう書けばいいですか?
-
資金提供を受けていない場合でも、欄を空白にするのはNGです。以下の定型文を使用してください。「This research received no specific grant from any funding agency in the public, commercial, or not-for-profit sectors.」ジャーナルによっては「The authors received no financial support for the research, authorship, and/or publication of this article.」という表現を指定していることもあるため、投稿規程で推奨文を確認するのが確実です。
COI(利益相反)との関係と開示義務
Funding Statementと混同されやすいのがCOI(Conflict of Interest)開示です。両者は目的が異なります。
| 項目 | 目的 | 記載場所 |
|---|---|---|
| Funding Statement | 研究費の出所を明示する | 独立したFundingセクション |
| COI開示 | 著者の利害関係を明示する | 独立したCOI/Declaration of Interestセクション |
「資金提供元がない=利益相反なし」とは限りません。株式保有・講演料・コンサルティング報酬なども開示対象です。COI開示はFunding Statementとは別のセクションに記載し、どちらも空欄にしないようにしましょう。
すぐ使える!カテゴリー別・必須英文フレーズ集
謝辞の構成ルールを押さえたら、いよいよ実際の英文を組み立てましょう。ここではカテゴリー別にそのまま使えるフレーズをまとめて紹介します。自分の研究状況に合わせて組み合わせるだけで、洗練された謝辞が完成します。
資金提供への感謝フレーズ
助成機関名・グラント番号を正確に記載するのが鉄則です。以下のフレーズに機関名と番号を当てはめてください。
- This work was supported by [機関名] (grant number [番号]).
- This study was funded by [機関名] under grant [番号].
- The authors gratefully acknowledge financial support from [機関名].
技術支援・実験協力への感謝フレーズ
実験補助・機器使用・データ収集などを手伝ってもらった場合に使います。役割を具体的に添えると信頼性が高まります。
- The authors thank [役割・所属] for technical assistance with [具体的内容].
- We are grateful to [役割・所属] for providing access to [機器・施設名].
- We would like to thank [役割・所属] for their assistance in data collection.
統計・英文校正・翻訳支援への感謝フレーズ
AIを使って英文校正・翻訳を行った場合、多くのジャーナルがその旨の開示を求めています。使用したツールの種類と目的を謝辞または著者声明に記載しましょう。
- The authors used professional English language editing services to improve the clarity of the manuscript.
- We thank [役割] for English language editing.
- Statistical analysis was performed with the assistance of [役割・所属].
助言・ディスカッション・査読協力への感謝フレーズ
- The authors thank [役割・所属] for valuable discussions and suggestions.
- We are grateful to [役割・所属] for critical reading of the manuscript.
- We thank the anonymous reviewers for their constructive comments, which greatly improved the manuscript.
フレーズを組み合わせた謝辞全文サンプル(理系・文系別)
実際の謝辞は複数のフレーズを自然につなげて書きます。分野によって感謝する対象が異なるため、以下のサンプルを参考に自分の研究に合わせてカスタマイズしてください。
理系(実験系)サンプル
This work was supported by [助成機関名] (grant number [番号]). The authors thank [技術スタッフの役割] for technical assistance with the electron microscopy experiments and [所属・役割] for providing access to the analytical facilities. We are grateful to [共同研究者の役割] for valuable discussions. The authors used professional English language editing services to improve the clarity of the manuscript.
文系・社会科学系サンプル
This study was funded by [助成機関名] (grant number [番号]). The authors gratefully acknowledge the participants who generously gave their time to this research. We thank [役割・所属] for their assistance in data collection and [役割] for valuable discussions and suggestions on earlier drafts. We are also grateful to the anonymous reviewers for their constructive comments, which greatly improved the manuscript.
サンプル中の [ ] 部分は自分の研究情報に置き換えてください。役割・所属を具体的に書くほど、読者・査読者への説得力が増します。
投稿前の最終チェック:謝辞でよくある失敗と倫理的注意点
謝辞は「おまけ」ではありません。記載ミスや倫理的な不備があると、査読通過後でも修正を求められたり、最悪の場合は掲載取り消しになるリスクがあります。投稿ボタンを押す前に、以下の項目を必ず確認しましょう。
謝辞に関する投稿規程チェックリスト
ジャーナルごとに謝辞のルールは異なります。投稿規程を読み飛ばしたまま提出するのは非常に危険です。以下の5項目を投稿前に必ず確認してください。
- 謝辞に名前を挙げる全員から掲載許可を口頭または書面で取得しているか
- 助成番号・機関名に誤字・脱字がないか(公式表記と一字一句照合すること)
- ジャーナルが定める文字数・フォーマット制限を守っているか
- Funding Statementを謝辞とは独立したセクションとして記載する規定がないか
- COI(利益相反)開示の内容と謝辞の記載が矛盾していないか
非ネイティブ研究者が陥りやすい表現ミス・文化的ズレ
また、日本語的な謙遜表現(「至らない点も多いと思いますが…」に相当する内容)を英訳して入れるのも避けてください。さらに、著者本人を謝辞の対象として誤って記載してしまうケースも散見されます。著者リストと謝辞対象者が重複していないか必ず確認しましょう。
改訂・再投稿時に謝辞を更新すべきケース
査読コメントへの対応中に状況が変わることがあります。以下のケースでは謝辞の更新が必要です。
- 改訂期間中に新たな助成金を受けた場合は、助成番号を追加する
- 査読者への感謝を加える場合、匿名査読なら必ず「anonymous reviewers」と記載する(実名は絶対に書かない)
- 協力者が増えた・連絡先が変わった場合は最新情報に更新する
AI執筆支援ツールを使用した場合の開示義務
多くのジャーナルは生成AIをAuthor(著者)として認めていません。ただし、文章作成・校正・翻訳などにAIツールを使用した場合、MethodsセクションまたはAcknowledgementsでの使用開示を求めるジャーナルが増えています。ジャーナルのAIポリシーを必ず確認し、使用した場合はツールの種類・用途・使用箇所を簡潔に記載してください。開示なしの使用が発覚した場合、論文撤回の対象になる可能性があります。
- 謝辞に書いた人から後でクレームが来ることはある?
-
あります。特に「著者として扱われるべき貢献をしたのに謝辞に格下げされた」というケースや、逆に「名前を載せてほしくなかった」というケースが報告されています。事前に必ず本人の確認・許可を取ることが倫理上の必須事項です。
- COI開示と謝辞の内容が矛盾するとどうなる?
-
編集部から修正依頼が届くか、場合によっては掲載保留になります。例えばCOI開示で「資金提供なし」としながら謝辞に企業名が記載されていると、整合性の問題が生じます。両セクションを並べて見直す習慣をつけましょう。
- AIで英文を校正しただけでも開示が必要?
-
ジャーナルによって異なります。校正・文法チェック程度は不要とするジャーナルもあれば、一切の使用を開示するよう求めるジャーナルもあります。「使わなかった」と言えない状況であれば開示しておく方が安全です。

