生成AIや自動翻訳ツールが進化する中、「AI時代にビジネス英語は不要になるのでは」という声が聞かれるようになりました。しかし、株式会社レアジョブが2026年10月19日に発表した調査結果は、この一般的な見方とは異なる実態を浮き彫りにしています。ビジネスの現場では、AIが代替できる業務と、人間の英語力が不可欠な業務との線引きが明確になりつつあるのです。
AIで代替できる業務とできない業務の明確な線引き

調査によると、ルーティンワークや定型的な連絡(例:日程調整や簡単な問い合わせ)については、約8割の企業担当者・個人が「AIで対応可能」と回答しています。一方で、利害対立における反論や議論のリード(CEFR B2相当の業務)になると、企業担当者の90.6%が「AIでは代替できない」と回答しました。さらにシビアな条件交渉では、93.2%の担当者がAI代替不可と答えています。
CEFR(セファール)は、語学の熟達度を測る国際標準規格です。A1・A2が初級、B1・B2が中級、C1・C2が上級とされます。ビジネスで自立して業務を進められるのはB1レベルから。議論や交渉をリードできるのはB2レベル以上とされています。
この結果から、AIは定型業務の効率化には貢献するものの、複雑な人間関係や利害が絡む高度な対話の領域では、依然として個人の英語力が決定的に重要であることが示されています。業務の難易度や対人折衝の深度が上がるほど、AIへの依存は難しくなるのです。
| 業務内容 | AI代替可否の傾向(企業担当者) |
|---|---|
| 定型的な連絡(ルーティン) | 87.2%が「AI可能」 |
| 業務の進捗確認・意見表明(B1相当) | 51.3%が「AI不可」 |
| 反論・議論のリード(B2相当) | 90.6%が「AI不可」 |
| 条件交渉・複雑な議論のまとめ(B2 High以上) | 93.2%が「AI不可」 |
このような認識の変化は、企業が求める英語スキルにも影響しています。同調査で、企業が現在最も重要視している英語力の技能を尋ねたところ、「話す」が44.7%で最多となりました。一方、「読む」「書く」はそれぞれ4%未満にとどまっています。これは、メール作成や資料読解といった読み書き業務では91.5%の企業がAIによる効率化を実感していることと符合します。
つまり、AI時代におけるビジネス英語の学習は、単に「必要か不要か」という二項対立ではなく、「どのような能力を、どこまで高めるべきか」という質的な転換点に来ていると言えるでしょう。次に求められるのは、AIでは賄えない高度な対人コミュニケーション、特に「話す」力の強化です。
AIを日常使う人ほど「対人学習」を重視する意外な事実



AIツールが仕事の一部を担うようになると、「人から学ぶ機会は減る」と考えるかもしれません。しかし、調査結果はその逆を示しています。英語業務でAIを「ほぼ毎日使っている」人を対象に「人間の先生と学ぶ機会の必要性」を尋ねたところ、96.3%が「必要」または「ある程度必要」と回答しました。
英語業務でAIを「ほぼ毎日使っている」人の96.3%が、人間の先生と学ぶ機会を「必要」と回答。
これは、AIを多用する人ほど、AIだけではカバーしきれない部分を痛感しているからです。彼らが対人学習に求める具体的な価値は次のようなものでした。
- 突発的な雑談や脱線から得られるリアルな対応力(75.0%)
- 表情や相槌など、非言語コミュニケーションを含むリアルな空気感(57.6%)
つまり、ビジネスの現場では、用意されたシナリオ通りに進む会話よりも、予期せぬ展開に柔軟に対応する「生きた対話力」が求められるのです。一方、回答者がAI活用に感じる不安要素も明らかになりました。
- 誤訳に気づけない(49.7%)
- 相手に合わせた言い回しが難しい(44.0%)
- 文化や習慣に配慮した表現ができない(24.6%)
これらは全て、相手との関係性や場の文脈を読み取り、適切な言葉を選ぶ「人間らしいコミュニケーション」に関わる課題です。AIツールは情報処理を効率化しますが、細かなニュアンスや文化的背景への配慮、そして何より「その場の空気」を読む力は、やはり人間同士の対話を通じて磨かれることが、この調査から強く示唆されています。
役職が上がるほど要求される英語力のレベルは高くなる



ビジネスシーンで求められる英語力は、役職によって大きく異なります。調査によると、企業が従業員に求めるスピーキング力の到達基準は、職位が上がるにつれて明確に高度化する傾向がありました。
一般社員や若手層に対しては、「挨拶や簡単な意思表明ができるレベル(CEFR A1〜A2相当)」を求める企業担当者が49.6%と約半数を占めています。一方、次世代リーダー層では「担当業務に関する打ち合わせへの参加や情報交換ができるレベル(CEFR B1・27.4%)」や「評価のフィードバックや1on1ができるレベル(CEFR B2・47.0%)」と、自立して業務上の英語コミュニケーションをスムーズに進められる中級以上のレベル(CEFR B1以上)が約9割を占めました。
求められるレベル: CEFR A1〜A2相当
内容: 挨拶や簡単な意思表明ができるレベル
求められるレベル: CEFR B1〜B2相当
内容: 業務上の打ち合わせへの参加や、1on1での評価フィードバックができるレベル
求められるレベル: CEFR B2 High以上相当
内容: 説得と巻き込み、ゴール達成へのリードができるレベル
最も顕著な差が見られたのは役員・エグゼクティブ層です。「TPOに沿った説得と巻き込み、ゴール達成へのリードができるレベル(CEFR B2 High以上)」を求める割合が62.4%に達しました。これは、前述の「利害対立における反論や議論のリード」や「シビアな条件交渉」といった業務が、企業担当者の9割以上から「AIでは代替できない」とされた高度な対話力に他なりません。
CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のB2レベルは「自立して複雑な文章を理解し、流暢に自然な会話ができる」段階とされます。B2 High以上はその上位レベルで、ビジネスでは「相手を説得し、利害を調整しながら合意形成をリードする」能力が求められます。調査によると、日本のビジネスパーソンでこのレベルに到達しているのは約7%にすぎません。
これらの結果から、キャリアを積み重ねるにつれて、単に情報を伝えるだけではなく、相手を巻き込み、合意を形成するための高度な対話力が求められることが分かります。AIが定型業務を担う時代だからこそ、人間にしかできない交渉やリーダーシップを発揮するための英語力が、より一層重要になっているのです。
日本人ビジネスパーソンの英語力の現状と課題



AIで定型業務が効率化される一方で、高度な対話力が求められる時代に、日本のビジネスパーソンの英語スピーキング力はどの程度のレベルにあるのでしょうか。調査会社が実施した調査と、独自の英語スピーキングテストの膨大なデータから、その実態が浮き彫りになりました。
ボリュームゾーンは初中級(CEFR A2 High)、AI代替不可のB2以上はわずか7%
調査では、日本人ビジネスパーソンの英語スピーキング力の最も多い層は「CEFR A2 Highレベル」で、全体の約30%(30.3%)を占めることが明らかになりました。これは「簡単な挨拶や意思表明ができる」段階であり、英語を使って何らかの業務をこなせる実践レベルには達していません。多くの人が実務の前段階で足踏みしているという現実が見て取れます。
さらに注目すべきは、調査で企業や個人が「AIでは代替できない」と合意した目安となる「CEFR B2以上」のレベルです。これは複雑な議論をリードしたり、シビアな条件交渉を行える能力に相当します。しかし、このレベルに到達している日本人ビジネスパーソンの割合は、わずか6.7%(約7%)に過ぎません。企業が求める高度な対話力と、実際に保有しているスキルとの間に、大きな断絶があるのです。
- A2 High: 簡単な挨拶や日常的な範囲の話題について、短い文でコミュニケーションが取れる。
- B1: 仕事や趣味など身近な話題について、筋道を立てて説明できる。自立して業務を進められる実践レベル。
- B2: 自分の専門分野であれば、複雑な議論や交渉をリードし、相手を説得できる。AI代替が難しい高度な対話力。
海外との比較で見えるスキルギャップ
この課題をより鮮明にするのが、海外のビジネスパーソンとの比較です。同じテストの海外受験者のデータでは、最多レベルが「B1 High(31.1%)」であり、AI代替不可の目安とされる「B2以上のレベルに26.9%が到達しています。これは日本の約7%と比べて、約4倍近い割合です。
日本のビジネスパーソンの多くは、国際的なビジネスコミュニケーションの土俵にすら上がれていない可能性があります。
このデータは、単に個人の学習意欲の問題ではなく、日本の英語教育や企業内の人材育成の在り方そのものに課題があることを示唆しています。AIが読み書きを肩代わりする時代だからこそ、初中級(A2)から実践レベル(B1、B2)へと着実にスピーキング力を引き上げる、体系的な育成アプローチが緊急の課題と言えるでしょう。
AI時代の英語学習:何を、どう学ぶべきか
調査結果からは、AIが定型業務を効率化する一方で、企業の語学力への投資意欲は高く、学習方法も進化していることが明らかになりました。多くの企業が、AIツールと対人学習を組み合わせる「ハイブリッド型」のアプローチを採用しています。
企業の93.1%が語学投資を「現状維持以上」、対人学習との併用が主流に
AIの普及が進む中でも、企業のグローバル人材育成に対する意欲は衰えていません。調査によると、英語学習を含むグローバル人材育成への投資について、93.1%の企業担当者が「拡大」または「現状維持」と回答しました。
特に注目すべきは学習方法です。AI英会話アプリなどのツールを導入している企業のうち、実に92%がオンライン英会話や講師対面研修といった「対人学習」を併用していることがわかりました。これは、AIだけでは補えない生きたコミュニケーション力を、人間との対話を通じて磨く必要性が現場で強く認識されていることを示しています。
投資は効率的に、現場で直接責任を担う層に集中しています。「次世代リーダー層・管理職」と「海外赴任・出張予定者」が合わせて67.5%を占め、高度な対話力が求められるコア人材の育成にリソースが振り向けられています。
初中級(A2)から実践レベル(B1/B2)へのステップアップが急務
では、個人の学習者は具体的にどのような学習を目指すべきでしょうか。調査結果と日本人の英語力データを合わせて考えると、明確な学習の道筋が見えてきます。
- 基礎固め(CEFR A1〜A2):まずは人との対話を通じて、英語を口に出すための土台を作ります。挨拶や簡単な意思表明ができるレベルを目指します。
- 自立した実践レベル(CEFR B1)への到達:次の目標は、業務の進捗確認や準備した上での意見交換を自力でこなせるレベルです。これは「AI代替不可」と認識される最初の分岐点でもあります。
- 高度な実践レベル(CEFR B2以上)への挑戦:最終的には、利害対立における議論のリードや、説得・交渉ができるレベルを目指します。企業の9割以上が「AI代替不可」と回答した、真に価値のある対話力です。
現在、多くの日本人ビジネスパーソンが足踏みしている初中級(A2)レベルから抜け出すことが第一歩です。そのためには、AIツールを「反復練習や基礎固め」に活用しつつ、オンライン英会話や対面レッスンで「突発的な雑談への対応」や「リアルな空気感の読み取り」といった対人コミュニケーション特有のスキルを積極的に鍛えることが効果的です。目標は、AIに任せきれない「自らの言葉で伝える力」を段階的に構築することにあります。
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