2026年11月2日、静岡県沼津市は、市内の小中学生がオンラインで初対面の外国人講師と即興英会話に挑む「沼津市統一パフォーマンス・デイ」の実施結果を発表しました。生徒の95.8%が「楽しかった」と回答するなど、高い評価を得ているこの取り組みは、暗記型ではない「使える英語」の育成を目指す画期的な試みとして注目されています。
オンラインで初対面の外国人講師と即興対話「沼津市統一パフォーマンス・デイ」とは

「沼津市統一パフォーマンス・デイ」は、教室に設置された端末を使い、初対面の外国人講師(Online Language Teacher)と一対一でオンライン英会話を行う取り組みです。最大の特徴は、事前に用意した原稿を発表するのではなく、その場で質問し、答え、会話を続ける「即興のやり取り」に重点を置いている点です。
令和4年度から中学生を対象に開始され、令和7年度からは対象を小学校6年生にも拡大しました。現在では、毎年約5,000人の児童・生徒が参加する大規模な事業に成長しています。
活動は主に2つのパートで構成されます。1クラスあたり約1時間で実施され、児童・生徒およそ5人に1人の外国人講師が付きます。
- 1対1の対話(評価対象):学年ごとに設定された共通課題(例:中学2年生「日本のおすすめの観光スポットについて、相手の旅行の希望を質問しながら会話を続け、相手に合った楽しみ方を提案する」)をテーマに、講師が評価とフィードバックを行います。
- グループでのフリートーク(評価対象外):評価を気にせず、自由に会話を楽しむ時間です。
このように、「評価される緊張感のある対話」と「リラックスした自由な会話」の両方を経験できることが、このプログラムの大きな魅力と言えるでしょう。
なぜこの取り組みを始めたのか? 背景にある英語教育の課題
沼津市が「パフォーマンス・デイ」を導入した背景には、日本の英語教育が直面する大きな課題と、その課題に対する同市の問題意識がありました。多くの英語学習者が感じる「読める、聞けるけど、いざ話すとなると言葉が出てこない」という悩みを、学校教育の早い段階から解消しようとする試みと言えるでしょう。
学習指導要領では、英語教育の4技能5領域のうちの1つ、「話すこと」が発表とやり取りに分かれ、即興的なやり取りの力の育成が強く求められています。
これは、事前に用意した原稿を読む「発表」とは異なり、相手の言葉に合わせて瞬時に考え、自分の気持ちや意見を伝える「やり取り」の力を育てなければならないことを意味します。しかし、この「即興で話す力」は、従来の日本の英語教育では十分に育成されてこなかったのが実情です。
- 学習指導要領が求める「即興的なやり取り」の力:新しい学習指導要領では、単に英語の知識を覚えるだけでなく、生きたコミュニケーションの手段として使える力を養うことが明確に示されています。その中核が「やり取り」の能力です。
- 沼津市が抱えていた「話すこと」の課題:同市の調査では、児童、生徒は「聞く力や知識に強みがある反面、自分の考えをその場で伝える力に課題がある」ことが明らかになりました。これは、多くの日本人学習者に共通する課題を反映した結果でした。
沼津市が「パフォーマンス・デイ」を導入した最大の目的は、「使う」体験を積むことと、その結果を授業改善に還元するサイクルを作ることにあります。全員が同じ目標(外国人講師との即興対話)に挑戦することで、学校や教員間での指導方法や評価の基準を共有し、より効果的な英語授業を実現しようとしています。
つまり、「パフォーマンス・デイ」は単なるイベントではなく、「読解や文法はできるのに会話ができない」という日本人によく見られる英語力のアンバランスを是正し、その解決策を授業そのものに組み込んでいくための、戦略的な仕組みなのです。
3年間の成果は? 生徒の意識変化と全国学力調査のスコア向上
オンラインでの「即興英会話」という取り組みを始めて3年。沼津市の小中学生たちの英語学習に対する意識や、実際の英語力にはどのような変化が見られたのでしょうか。約5,000人を対象としたアンケートと、全国的な調査の結果から、その効果を検証します。
生徒アンケート:楽しさと実感できる成長
「パフォーマンス・デイ」の実施後に生徒に対して行われたアンケートでは、年を追うごとに肯定的な回答が着実に増加しています。令和4年度から令和6年度にかけて、「楽しかった」と答えた生徒は91.3%から95.8%に、「英語を話す力が向上したと思う」と答えた生徒は82.9%から87.6%に上昇しました。この数字は、子どもたち自身が楽しさと成長を実感していることを示しています。
| 評価項目 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|---|
| 「楽しかった」 | 91.3% | 93.6% | 95.8% |
| 「話す力が向上したと思う」 | 82.9% | 84.4% | 87.6% |
| 「思いや考えが伝わったと思う」 | 80.1% | 82.9% | 87.2% |
生徒からは「自分から質問することができた」という達成感の声が聞かれ、英語が苦手だった生徒も、助けを求めながら伝えようとする姿勢が見られたとのことです。教員からも、「英語を生き生きと話すこの機会が子供の学習のモチベーションを高めている」という声が寄せられています。
全国学力調査でも高いスコアを記録
学習意欲や自己効力感の向上だけではありません。令和8年度に実施された全国学力・学習状況調査(中学校英語・4技能)では、沼津市の平均スコアが全国平均を大きく上回る結果となりました。この調査は、「聞く」「読む」「書く」「話す」の4技能を総合的に測るものです。市全体で取り組む「即興対話」のトレーニングが、「話す」技能だけでなく、英語運用能力の総合的な向上にもつながっている可能性を示唆しています。
アンケート結果の上昇傾向と客観的な学力調査の結果は、この取り組みが単なるイベントではなく、教育効果の高いプログラムとして定着しつつあることを裏付けています。
英語学習者への示唆:即興の会話力を鍛えることの重要性
沼津市の「パフォーマンス・デイ」が力を入れているのは、事前に準備したスピーチではなく、その場で質問し、答え、会話を続ける「即興のやり取り」の力です。これは、単に学校の授業に役立つだけでなく、大人の英語学習者、特にTOEICや英検の面接、そして実際の日常会話やビジネスシーンにおいても不可欠なスキルです。実際のコミュニケーションはほとんどが即興であり、想定外の質問や話題に対応できる力が求められるからです。
「パフォーマンス・デイ」が目指す力はTOEICや英検にも活きる
例えば、英検の面接試験では、与えられたイラストについて説明したり、面接官からの質問に対して自分の意見を述べたりする能力が問われます。TOEIC Speaking & Writingテストでも、意見を述べる問題や、与えられた情報に基づいて応答する問題が出題されます。これらはまさに「即興のやり取り」の力です。沼津市の取り組みのように、「評価される」という緊張感のある場で実践を積む経験は、試験本番で力を発揮するための貴重な練習になります。
- 完璧さよりも「伝えようとする姿勢」を優先する:文法や発音のミスを気にしすぎると、言葉が出てこなくなります。まずはジェスチャーや簡単な単語を使ってでも、伝えたいことを表現することを心がけましょう。
- 質問力を磨く:会話を続けるためには、相手に質問することが効果的です。「What about you?」「Why?」「How?」など、シンプルな疑問詞を使うことから始めてみましょう。
- フィードバックを受ける機会を作る:沼津市の取り組みのように、第三者から客観的な評価やアドバイスをもらうことで、自分の弱点や伸びしろが明確になります。
大人の学習者が日常で実践できる「即興会話」の練習法
あるオンライン英会話サービスを利用する際は、レッスンテキストに沿った学習だけで終わらせず、最後の5分間は講師と自由に雑談する時間を作りましょう。今日の出来事や趣味など、何でも話題にしてみます。これが即興会話の基礎トレーニングになります。
沼津市の例のように、具体的な課題を設定して練習します。例えば、「レストランで希望に合う料理を薦める」「道案内をする」といったシチュエーションを想定し、相手の反応に応じて臨機応変に会話を進める練習をします。
年に数回、英検やTOEICなどの資格試験を受験したり、普段とは違う講師とのレッスンで評価してもらったりする機会を設けましょう。目標と緊張感が学習のモチベーションを高め、自分の成長を客観的に確認できます。
英語を「使う」体験を積み重ねること。沼津市の小中学生たちの挑戦は、文法や単語の暗記だけではない、コミュニケーションとしての英語学習の重要性を、私たち大人の学習者にも改めて教えてくれています。
今後の展開と、英語教育への示唆
沼津市の取り組みは、年に一度の特別なイベントで終わるものではありません。プレスリリースによれば、中学校3年生では、社会的な話題について意見を交わす課題にも挑戦しているとされています。これは、単なる日常会話の枠を超え、より高度な思考力と表現力を英語で発揮することを目指すものです。そして、最終的な目標は、この「パフォーマンス・デイ」の経験を日常の授業に還元し、子どもたちが自分の考えをその場で英語で伝え合う力を継続的に育成するサイクルを定着させることにあります。
中学校3年生では社会的話題での意見交換にも挑戦
中学生の最終学年である3年生では、学習内容もより高度になります。沼津市では、「日本のおすすめの観光スポット」といった身近なトピックから一歩進み、社会的な話題について意見を交換する課題に取り組んでいます。これは、新学習指導要領が求める「即興的なやり取り」の力を、単なる情報交換のレベルから、論理的に考えを整理し、相手と議論するレベルまで引き上げる試みと言えるでしょう。このような経験は、将来の大学受験や資格試験での面接、さらには国際的な場でのコミュニケーションにも通じる重要な基礎力を養います。
年に一度のイベントから日常の授業へ
この取り組みの真の価値は、年に一度の成功体験を、日々の学びにどう生かすかという点にあります。沼津市は、パフォーマンス・デイで明らかになった児童・生徒の課題(例えば、「自分の考えをその場で伝える力」の不足)を、教員の授業改善につなげるサイクルを構築することも目的としています。つまり、オンラインでの対話は単なる「イベント」ではなく、日常の授業をより実践的で効果的なものへとアップデートするための貴重な「診断機会」として機能しているのです。
ICT(クロームブック)を活用し、限られた人的リソース(外国人講師)で多くの学習者に実践的な対話機会を提供するこのモデルは、他の自治体や教育機関にとって大きな参考になります。特に、「話すこと」の評価と指導が課題となる学校教育現場において、効果的で持続可能な解決策の一例を示しています。
英語学習者への示唆:学校教育が「使える英語」をどう育てようとしているのかを知ることは、社会人学習者自身の学び方を見直すきっかけにもなります。
私たち大人の英語学習でも、暗記や事前準備に頼りがちではありませんか。沼津市の子どもたちが挑戦している「即興のやり取り」は、まさに実践で最も必要とされるスキルです。この事例は、定期的に「出力」の機会を設け、フィードバックを得ながら、自分の言葉で伝える訓練を積み重ねることの重要性を改めて教えてくれます。あなたの学習計画にも、そんな「パフォーマンス・デイ」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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